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七ケ島 鏡一
七ケ島 鏡一
novelistID. 44756
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グランボルカ戦記 2 御前試合

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「始め!」
 審判のヴィクトルの掛け声で、第一試合が始まった。
 対戦カードはクロエ対レオ。
 二人は構えはしたものの、向かい合ったまま、一歩も動かず対峙していた。
 観衆が、どちらから仕掛けるのかと固唾を飲んで見守る中、クロエは彼と最初に出会った時のことを思い出していた。

「こりゃあまたかわいいメイドさん達だな」
 皇帝陛下の友人だというオッドアイの男性は、城の中庭にある東屋に二人分のお茶を運んできた姉妹を見つけると、そう言って頭を撫でた。
「ああ、少し前に森で獣に襲われていたところを保護して引き取ったんだよ。今はリジーの養子になっているんだ。アリス、クロエ。挨拶を。」
「はじめまして、アリス・シュバルツと申します。以後お見知りおきを。」
「く・・・クロエ・シュバルツです。よ、よろしくお願いします。」
「おお、礼儀正しいな。こちらこそよろしくな。それより君たちあの鬼ババアにいびられたりしているんじゃないか?よかったらオジさんの家の子になるか?」
 そう言って心底同情したような表情を向ける彼の後ろには、話題の養母の姿があった。
「・・・誰が鬼ババアだって?」
「うお、出たなリジー。」
 二人の少女の養母の存在に気がついて、男性が慌てて席を立って距離を取った。
「ランド。アンタ最近ちょっと調子に乗っているんじゃないかい?」
「別に調子に乗ってなんかいないって。いや、本当に。だからその殴られたら痛そうな拳をひっこめてくれって。」
「ふん・・・まあそういうことにしておいてあげるよ。子供たちの前でトラウマになりかねない凄惨な光景を繰り広げるわけにもいかないからね。ただ、次に同じような陰口を言ったら、アンタの四肢を引き千切るからそのつもりで。」
「はっはっは。リジーは言うことが過激だなあ。」
「過激だなあ。じゃねえよ!そんな朗らかに笑う話じゃねえだろ!・・・まあいいや。レオ、おいレオちょっとこっちこい。」
「何、お父さん。」
 少し離れた所で遊んでいた金髪の少年がこちらの方へ、トテトテと走ってきた。
「こちら、クロエちゃんとアリスちゃんだ。この二人はきっと将来美人になるから、どっちでもいいからいつものように、今のうちに唾つけとけ。」
「あんた、子どもになんてこと言っているんだい。」
「まあまあリジー。いいじゃないか唾を付けるとかそういうことはともかく、友人になるのは悪いことじゃない。レオ君、アリスは君より少しだけお姉さんでうちのアレクシスと同い年、クロエは君と同い年だ。仲良くしてやってくれ。」
「あ、私は好きな人がいるので、そういうのは。」
 いち早く、アリスがそう言って辞退する。
「そうなんだ。じゃあ、クロちゃんよろしくおねがいします。」
 レオはそう言って頭を下げたが、クロエはこの時既に幼いながらもアレクシスに恋心を抱いていた。
「え・・あ・・でも。わ、私も好きな人がいる・・・から。」
 申し訳なさそうに頭を下げるクロエの様子を見てランドは豪快に笑った。
「はっはっは、初失恋だなレオ。でもまあ、十勝二敗だからな。次頑張れ。」
「あんたまさか、そこかしこでこんなことを子どもにやらしてるのかい!」
「いいじゃんよ。港々に女が居るとかロマンだろ。なあ、テオ。」
「馬鹿なこと言ってるんじゃないよ!テオ様がそんな・・・」
「まあ、ロマンかもしれないな。」
 顎に手を当てて真剣に考える皇帝の様子に、リジーは冷たい視線を送って無言の抗議をした。
「・・・皇妃様にご報告いたしましょうか。」
「あ、いやリジー。冗談だよ、冗談。告げ口とか、よくないと思うんだ。うん。」
 そんなやり取りをする大人たちをよそに、レオが再びクロエに近づいて話しかけた。
「ねえねえ、クロちゃん。僕ふられちゃったけど、友達にはなれるよね?」
「え?友達・・・?」
「うん。友達。だめかな?」
 どうなんだろうと思ってクロエがアリスの方を見ると、アリスはニコニコと笑いながら頷いた。それを見たクロエの表情は花が咲いたように明るくなる。
「こ、こちらこそよろしくおねがいします。・・・レオくん。」 

(皇子は友達って言うのとは違うし、思えば私がまともに友達になったのって、こいつが最初なんじゃないかしら。)
「どうした、クロちゃん。俺の顔に何かついてるか?」
「クロちゃん言うな。別に何もついてないわよ。ただちょっとあんたと最初に会った時のことを思いだしていただけ。」
「ああ、クロちゃんが俺に『好きです抱いて』って言ってきて、俺が『すまねえな、待たせてる女がいるからお前の思いには応えられねえ』って言った時の。」
「とんでもない捏造すんじゃないわよ!そんな6歳児が居てたまるか!立場が逆でしょ!ふられたのがあんたで、ふったのがあたしよ!」
「あれ、そうだったっけ。でもそう言われればそうだったような気も・・・ていうか、俺達って最初に会ったのそんなに前だっけ。」
「ああもう!あんたそういう適当な所、本当におじさんそっくりよね。」
「げ、やめろよな、あのクソ親父と似てるとか言うの。てか、クロちゃんこそお固い所がおばさんそっくりだよな。」
「光栄よ!色々あっても、あたしは養母さんのちょっと頭が堅い所も好きだもの。」
「いや、確かにおばさんは頭が硬いけど、クロちゃんは胸が堅いよなって。」
「殺す!」
 レオの挑発が引き金になり、クロエが空間転移でレオの後ろへと回りこんで蹴りを繰り出す。
「ワンパターンだって前から言ってるだろ。」
 レオがそう言って腰から上を半回転させてクロエの足を受けにかかるが、クロエは更にテレポートを重ねて、レオの斜め上空に出現する。中段蹴りを受けるつもり満々で構えていたレオは、突然蹴り下ろす軌道に変わったクロエの蹴りをまともに肩口に受ける。彼女の体重に加え、重力も加わったその蹴りの衝撃は肩口だけではなくレオの全身にダメージを与えた。
「誰がワンパターンだって?」
「う・・お。キックだけに効く。・・・なんつって。」
「余裕ぶりたいのかもしれないけど、顔だけじゃなくて膝も笑ってるわよ。」
「いや。全然平気だし。こんなの痛くも痒くもないし。」
「・・・あんた、たった今自分で効くって言ってたじゃない。もういいから降参しなさいよ。」
「いやあ、さすがに何もしないで降参とかすると、色々と外野がうるさそうなんでね。悪いけど勝たせてもらうぜ。」
 レオはそう言ってナイフをしまうと両手を突き出すような格好でクロエに突進した。
「は・・・何をするつもりか知らないけど、そんなのかわせないわけないでしょ。」
 レオの突進を難なくかわしたクロエがそう言いながらレオの方へ向きなおると、レオは既に次の突進を仕掛けてきていた。
「って、無駄だって言ってるでしょ。」
 それから何度目かの突進をかわしてクロエがテレポートをして姿を現した時だった。
「このタイミング、この場所を待ってたぜ。」
 レオがそう言って不敵に笑うと、クロエは次の瞬間、舞台から下に落ちていた。
「しょ・・・勝負あり。」