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七ケ島 鏡一
七ケ島 鏡一
novelistID. 44756
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グランボルカ戦記 2 御前試合

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 アレクシスの心配をよそに、御前試合の予選は、何事も無く進行し、残るは各ブロック代表による決勝トーナメントを残すだけとなった。観衆で満員になった競技場に特設の舞台を設け、舞台よりも一段高い場所に設けられた特設席にアレクシスやルチアが座り、その特設席のすぐ前の実況と書かれた札の立った席にはルー、解説席にはリュリュの姿があった。
「アミサガン市民四万の皆様。そして、連合軍三万の皆様!お待たせいたしました!これより御前試合決勝トーナメントを開催します!」
 拡声魔法をエンチャントされた道具に向かってルーが叫ぶと、会場中に彼の声が響く。その声に呼応して観客たちの歓声とテンションも最高潮に達する。
「では、各選手入場!」
 楽団による荘厳な入場曲の演奏の中、激戦を勝ち残った選手が入場をはじめる。
「戦う姿はまさに竜巻!巨大な剣で敵を吹き飛ばす!身体に刻まれた数々の傷は、一歩も引かずに姫君を守り通した勲章か。リシエールの誇り、ジュロメブロック代表、ヘクトール・ブライトマン!」
 完全に油断していたヘクトールはルーのアナウンスに、一瞬驚いたような表情をしたが、すぐに観客の歓声に両手を上げて答えた。
「魔女の伝説は本当だった!身体にダメージを与えず、じわりじわりと精神的ダメージを与える様はまさに魔女。サディストオブサディスト!素敵!最悪!災厄の魔女!カーラ・バニングス!」
 カーラがルーの声に答えるようにたおやかな笑顔で手を振ると観客席の一角で衛生兵の応援団がわっと歓声を上げた。
「続いて出てくるのは、正体不明の一般参加者。その正体は十年の時を経て蘇った亡国の怨念か、はたまた、現在の帝国の状況を嘆く憂国の士か。ツインソードで眼前に立つものを薙ぎ払う黒い疾風!リシエール仮面一号!」
 目元を隠すマスクと羽帽子を被った黒髪の女性が手を上げると、予選での彼女の活躍を見てファンになった観客達が急遽作った応援団と、リシエール義勇軍の一団が横断幕を掲げて声を上げた。その数はカーラの衛生兵応援団に引けを取らない規模のものだった。
「すごい人気ですエーデ・・・リシエール仮面!」
「うむ。リシエール仮面二号だったリュリュとしても鼻が高いわ。どうせなら一号にはぜひとも決勝まで行ってほしいものじゃな。」
 予選にリシエール仮面二号を名乗って参加し、意外にも大健闘をして予選三回戦まで勝ち抜いたリュリュがリシエール仮面にエールを送る。
「はい、正体がバレバレということは置いておいて、健闘を期待しましょう!・・・さあ、続いての入場は、我らアレクシス四天王、唯一の決勝進出者。 戦う姿はまるで蝶が優雅に空を舞っているかのよう。しかし一度攻撃に転じればその攻撃は、蜂のそれも凌ぐ鋭さをほこる!戦場に舞うダンシング・ドール!クロエ・シュバルツ!」
(何でその恥ずかしい二つ名を呼ぶのよっ!)
 クロエが恨みを込めた視線をルーに送るが、当然ルーには届かない。
 更には会場中から「ク・ロ・エ!」「ダンシング・ドール!」と、もはやイジメなのではないかと思うほどの大音量で繰り返し繰り返しコールが巻き起こり、クロエは顔を真っ赤にしてうつむきながら舞台へと上がった。
「お次は意外なこの人だ。スカウトが戦えないと誰が決めた。二本の大型ナイフは投げてよし、切ってよし。トリッキーファイター、レオンハルト・ハイウィンド!」
 レオは舞台に上がるなり他の選手よりも一歩前に出ると、唐突に「ソフィア!愛してるぜ!」と叫び、心底自己嫌悪に陥ったような表情を浮かべて肩を落としながら列に戻った。
「はい。いきなりの告白ありがとうございました。予選の時からそうでしたが、まるで誰かに無理やり言わされているように感じるのはどういうことでしょう。」
 ルーの指摘の通り、実際今のはレオが言いたくて言っているのではない。ルチアが、偽りの夫婦関係の問題でソフィアを無理やり連れて帰らない条件として、『堂々と自分がソフィアの連れ合いであることを皆の前で宣言すること。』という条件を出してきたためだ。そのためレオは、予選でも勝利するたびに先ほどと同じ恥ずかしい台詞を叫び続けていた。
 嫌々ではあるとは言え、愛が無ければとても実行できる条件でないのもまた確かではあるが。
「リュリュ様は私が守る!決意新たに振るう剣の前には、まさに敵なし!白騎士!アンジェリカ・フィオリッロ!」
 アンジェリカがルーの実況に手を上げて応えると、場内に今までで一番黄色い歓声が響いた。
「アンジェリカさん女性にモテモテですね。」
「まあ、正直言ってリュリュの配下にはアンジェ以上に格好いい者はおらんからのう。仕方なき事じゃ。」
「・・・さすがにそんなことを言われたら男性騎士達が傷つくのでは?」
「だとしても事実じゃからのう。」
「はい、子どもは残酷です。さあ、つづいての入場は、力ずくで優勝をもぎ取る為にここまで来た!予選はすべて一撃、一本勝ち!グランボルカ仮面選手一号、弐號!」
「ちょっと待て。今お主、リュリュの事を子どもと言わなんだか?」
「やだなあ、言ってませんよ。さてリュリュ様。このグランボルカ仮面ですが、正体をどう見ますか?」
「・・・まあ、リュリュのような例外はさておき、リシエール仮面がリシエール出身者であることを考えれば、当然グランボルカ仮面はグランボルカ出身の者となるのじゃろうが。ジゼル姉様や叔父上は素顔で参加をしておるし、影響されて悪乗りしそうな兄様もここにおる。正直言って見当もつかんのう。じゃが、一号はオリガやソフィアのいるグループを勝ち上がってきたのじゃ。只者ではあるまい。」
「僕としては、負けた時に全く何をされたのかわからなかった弐號さんのほうが気になるんですけどね。どちらにしても二人共只者ではないでしょう。さあ、最後は色々な意味で激しい親子の登場だ。うつけ者の名は世を忍ぶ仮の姿だった!華麗な鞭さばきでどんな相手もノックアウト!アンドラーシュ・モロー!剣の技はリシエール仮面と互角かそれ以上。リシエール仮面が黒い疾風だとすればこの人は真紅の炎!ジゼル・モロー!」
 二人揃って入場してきたモロー父娘は何故か蝶の仮面をかぶっていた。
「おおっと、あの仮面はリシエール仮面に対抗したものでしょうか。なんにしても今更仮面で顔を隠す意味がわかりません。」
「お父様。やはりこれは・・・。」
 そう言いながら仮面を外そうとするジゼルの手を、アンドラーシュが慌てて止める。
「こういう時くらい親子でお揃いっていうのも悪くないでしょ。アタシの一生に一度のお願いだと思って聞いてちょうだいな。」
「・・・・・・まあ、別にいいですけど。」
「んふふ。ありがと。ジゼルのそういう優しいとこ、大好きよ。」
 そう言って笑うアンドラーシュの表情を見てジゼルはやれやれとため息をついた。