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七ケ島 鏡一
七ケ島 鏡一
novelistID. 44756
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グランボルカ戦記 2 御前試合

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 カズンがアレクシスの部屋を出た頃、自分の部屋で書類整理に追われていた連合軍衛生兵部隊総隊長カーラ・バニングスは自分の執務室の隣にある隊舎から言い争うような声が聞こえてくるのに気がついた。
 カーラが書類整理の手を止め、隊舎に向かうと、だんだんと言い争いの内容が聞き取れるようになってきた。
「ダメに決まっているでしょ。私たちは医療分野の審査をしなければいけないんだから。」
「そんなことはわかっている!だが、これは我々の沽券に関わることだ。馬に乗らなきゃ何もできないような騎士に好き勝手言われて黙っていられるか!」
「何事ですか。」
 隊舎に入ってきたカーラの一言で言い争いをしている二人を囲んでいた人垣がさっと割れる。
 人垣の中心で言い争いをしていたのはカーラの予想通りの二人。衛生兵副隊長のエドガーとリサだった。
 この二人、実力は申し分ないのだが、元々エドガーはリュリュ配下、リサはアレクシス配下であったため、妙な縄張り意識のようなものがあり、連合軍となり、カーラがすべての衛生兵を取りまとめるようになった後も何かと衝突を繰り返していた。
「あ・・・隊長。」
 カーラの姿を見たエドガーは先程までの威勢の良さはどこに行ったのかという程に縮こまり、借りてきた猫のようになっている。
 対して、リサの方は背筋を伸ばし、敬礼をするとハキハキとした口調で話しだす。
「ご報告します。エドガー副隊長殿は、我々衛生兵の職務である御前試合医療分野の試験監督の任務を放棄し、あろうことか野蛮な殴り合いに出場するなどと言い出しました。そのため私が思いとどまらせようと説得を試みていた次第です。」
「リサ、テメエ俺のことばっかり悪く言いやがって・・・。」
「エドガー。落ち着きなさい。」
 リサに掴みかかろうとするエドガーを制してカーラが続ける。
「沽券がどうとか聞こえたけれど、何かあったのエドガー。」
「・・・はい。ついさっきなんですが、うちの隊の人間が城下に買い物に行った帰りにアレクシス殿下旗下の騎士に侮辱を受けました。前線に出ない衛生兵は気楽でいいと。騎士がいなければ何もできない存在だと。」
「・・・・・・。」
「当然使いに出ていた者は抗議をしたのですが、だったら証明してみせろと言われ、二対一の喧嘩になり怪我をさせられました。」
「怪我は酷いの?」
「いえ。擦過傷と打撲程度ですので、すぐに治せますが、だからと言って、その騎士の非道を黙認することはできません。ですから私は御前試合に出て部下の敵を取ってやりたいのです。」
 エドガーの話を聞き終わったカーラは深くため息をつくと、口を開いた。
「事情はわかりました。しかしエドガー。あなた確か戦技は全くだめではなかったかしら。」
「う・・・。」
「ほら言われた。だからやめろって言ってあげてたのに。」
 得意げにぽそりとつぶやくリサに、エドガーは面白くなさそうな視線を向けた。
「でもリサも、エドガーの代わりに自分が出る位の事を言ってもいいのよ。騎士にそんな事を言われて、黙っているあなたではないでしょう。」
「え・・・?よかったんですか?カーラ先生はそういうの嫌うんじゃないかと思っていたんですけど。」
 リサが思わず学生時代同様にカーラの事を先生と呼んでしまうくらいに、カーラの言葉は彼女にとって意外だった。
「確かに私は余計な争いごとは嫌いだけれど、同じ兵科の仲間が侮辱を受けて怪我までさせられているんだもの。そういう時は怒ってもいいと思うわ。」
 隊長の許可が出たことで、同じアレクシス配下ということで、問題の騎士に対して思うところのあるリサが俄然乗り気になって手を挙げる。
「許可してもらえるならエドガーみたいなへっぽこじゃなくて、私がやります!私が仇を取ります!あの騎士、昔からムカつくことばかり言うから一度ギャフンと言わせたかったんです。」
「許可できません。確かにリサはエドガーよりは強いけど、まだまだだもの。・・・ねえ、エドガー。アレクシスのところのなんという騎士かわかるかしら。」
「え・・あ、はい。あまり評判のよくないことで有名な騎士ですので。」
「そう。じゃあ名前が知りたいわ。」
「まさか隊長、アレクシス様に言って処罰してもらうつもりですか?ダメですよ、ああいう手合いは逆恨みするに決まっています。悔しいですが、実際その騎士の言うとおり、衛生兵の中にはエドガーのように戦技が不得意な人間も居ます。そういう人間が標的にされてしまうかもしれません。」
 リサの言葉を聞いてカーラは笑顔でリサに向き直る。
「あらリサ。私がそんな告げ口のようなことをすると思っているの?」
「へ?じゃあどうする気ですか・・・?」
 言いかけたリサは、カーラの目が全く笑っていないことに気がついた。
「審査の方は、あなた達二人で大丈夫よね。もちろん手が足りなければ誰を使ってくれてもいいわ。」
「・・・隊長?」
「私もね、昔同じようなことを言われたことがあるのよ。もちろん、そんなことを言った騎士はめっこめこにしてあげたんだけど。」
 目が笑っていない笑顔で、めっこめこなどと可愛い形容詞を使われても全然笑えない。
 そう思って周りの人間の顔から血の気が引いているのを知ってか知らずか、カーラはそのまま続けた。
「嫌になっちゃうわね。いつの時代になってもそういう手合いって減らないのだから。・・・直々にお仕置きしてあげたいから、ちゃんと主催者のアレクシスとアンドラーシュに言って、予選をその騎士と同じブロックにしてもらわないとね。」
 そう言って、クスクスと笑い声を漏らすが、やはり目は全く笑っていない。
 彼女の名はカーラ。
 現グランボルカ帝、バルタザールが皇太子の時代、学生だった彼の下で最悪の魔女の名を欲しいままにした女性である。