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七ケ島 鏡一
七ケ島 鏡一
novelistID. 44756
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グランボルカ戦記 2 御前試合

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  アレクシスから渡された紙束に目を通し終わると、ルチアはため息をついて紙束を机の上に投げ出した。
「結構な数だねえ。これ、あたしがやらなきゃ駄目なのかい?」
「ええ。そのリストにある人間は必ず我が軍の主力となり得る者たちです。そのリストにある人間の武具のエンチャントだけは、ぜひともルチアおばさんにお願いしたいんです。」
「ふむ・・・グレートソードタイプが4本。ショートソードが2本2対。大ぶりのナイフが2丁に投擲用ナイフができるだけ沢山。まあ、投擲ナイフなんてのは、弟子にでもやらせるとして、スピアーが1の、攻撃用の手甲。鉄扇、チャクラム、ハルバート、ハーケーン・・・なんというか、個性的な面子だねえ。非戦闘員分も必要だから防具は更に多いのか・・・。他に、量産品でもOKな武器防具が3万か・・・。」
 あごに手を当てて考えこむルチアに、アレクシスが口を挟んだ。
「数は多いですが、市販の武器にエンチャントしてもらえれば結構ですので。」
「あんたは、本当に武器の事が何もわかっていないね。短期のエンチャントなら確かにそれでいいんだけど、短期でカタがつく戦いじゃないんだ。リッチやら何やらとの戦闘中に兵士のエンチャントが切れたら、目も当てられないだろ。だからちゃんとその人間にあった武器のカスタマイズと、制作過程からのエンチャントが必要になる。使用者の筋力、体力、性格、魔力の質。そういった条件をカウンセリングする所から始めないとならないんだ。とりあえずカウンセリングから制作までできる弟子も連れてきているから、手は足りるだろうけど・・・まあ3月は見てほしいね。あと、代金はこのくらいかな。」
 ルチアは大体の見積もりを頭の中で弾きだして納期と金額をアレクシスに示した。
「3月・・・さらにその値段・・・ですか。」
「ああ、アレクシス軍、リュリュ軍、アンドラーシュ軍、リシエール騎士団。全軍の兵士分すべてのカスタマイズ、オーダーメイドで3月。嫌なら他当たりな。これ以上の納期短縮もロットの削減も。もちろん料金の引き下げも応じられないよ。」
「全軍で?・・・わかりました。3月、その値段に五割増しでお支払いしますのでしっかりしたものをお願いします。」
 全軍の兵士分でと聞いて、アレクシスの表情が明るくなる。
 アレクシスとしても、主力と位置づけた人間だけでなく、全体の戦闘力が上がり兵の帰還率が上がるのは願ったり叶ったりなのだ。
「商談成立だね。まいどあり。・・・しかしまあ、アレクシスが総大将っていうのは、ちっちゃい頃を知っているあたしから見たら、やっぱり何だかおかしな感じがするねえ。」
「自分でも柄じゃないっていうのはわかっているんですけど、まさかリュリュにやらせるわけにも行きませんしね。」
「まあ、それもそうか。かと言って、アンドラーシュじゃ、いささかカリスマ性に欠けるしねえ。」
「ええ、そうなんですよね。」
「こらこらこら。アレクシス、あんたまで何納得してるのよ。」
 今まで黙って資料に目を通していたアンドラーシュがあまりにもあんまりな二人の会話に割り込んできた。
「あ、すみません。つい。」
「まったく・・・ところでルチア。」
「あ?」
「・・・先輩。このカウンセリングって全員分を何人でするんです?」
 ルチアににらまれて、アンドラーシュは慌てて先輩と付け加えた。
「大体百人くらいかな。制作はもうちょっと人数が増えるけど。まあ、まともにやっていたら時間かかって仕方ないから、それについてもちょっと提案があってね。こっちとしては、やっぱり実際に戦っている時の所作をみたいわけさ。そこで、アレクシスにお願いなんだけど、全員参加の御前試合なんかを開催してもらえないかね。できればそこで一気にデータを取っちゃいたいんだ。そうすれば後は簡単な問診くらいで済むし。」
「御前試合・・・それ、いいですね。もしかしたら隠れた人材を発掘できるかもしれない。わかりました、すぐに手配をさせましょう。」
 そう言ってアレクシスは手を叩いて部屋の外に控えていた兵士を呼ぶと、手早く指示をした。
 その日の夕刻には御前試合開催の報は全軍に広まっていた。さらにその御前試合は、広く一般にも門戸を開き、武術に限らず、軍略、医療分野においても行われ、成績が優秀だったものは、身分にかかわらず役職への登用を約束するという話になっていた。
「そういえば、随分話が大きくなっちゃったけど大丈夫なの?」
 食事が一段落した所で、アンドラーシュがアレクシスに尋ねる。
「ああ、御前試合のことですか?大丈夫ですよ。そもそも医療や軍略もと言い出したのは僕ですからね。軍略については、アリスやカズンに任せれば大丈夫ですし、医療については叔父上のところのカーラ大隊長にお願いすれば間違いはないでしょう。」
「あんたねえ、簡単に言うけど、カーラって結構気難しいから説得するのも一苦労なのよ・・・。」
「え?そうかな。カーラさんって結構優しいと思うけど。」
「そうだよね。ミスをこっそりフォローしてくれたりもするし。あの人がお姉ちゃんとかだったらいいのになあ。」
 げんなりと肩を落とすアンドラーシュの様子を見て、何故そういう評判になるのかわからないという表情で首を傾げるエドと、エドに賛同するソフィア。
「・・・ソフィア。知らないみたいだから教えておくけど、カーラってあたしより年上だからね。というか、あたしやシモーヌが学生だったときには既に講師をしていたくらいなんだから。」
「え・・・ええええっ?嘘、わたしの一つか二つ年上くらいだと思ってた。」
 ルチアの言葉を聞いて、ソフィアはびっくりして声を上げる。
「あの人、レオやアレクのお父さんと同い歳だから。常に回復魔法を使い続けることで、老化しないようにしているみたいだけど、もう五十近いわよ。」
 アンドラーシュもルチアに同調したことで、本当の事であるらしいことを悟ったリュリュ、エド、ソフィア、ユリウスの四人は一様に驚きの表情を浮かべた。
「・・・回復魔法ってどうやったら手に入るんだろ。」
「ふっふっふ。では系統が同じリュリュは五十になっても美貌を保てるということじゃな。これは良いことを聞いた。」
「お姉ちゃんじゃなくてもこの際お母さんでも・・・。」
 反応は三者三様、悲喜こもごもである。
 そんな中、血の気の引いた顔でうつむいている男が一人。
「どうしたの、ユリウス。青い顔をして。」
「いえ・・・なんでも無いです。」
「・・・お前、まさか知らずにカーラさんに言い寄っていたのか?あんなこと言うから俺はてっきり。」
「レ・・・レオ!」
 ユリウスは慌ててレオの口を塞ぎにかかるが、時既に遅し。その場にいた全員の興味は、ユリウスがカーラに何をしたか、何を言ったかという事に向いていた。エドは立ち上がってユリウスをレオから引き離して、続きを促す。
「ささ、レオ。何があったか教えてよ。」
「え・・・いや。俺が口を滑らしておいてなんだけど、やっぱこの話はやめないか?さすがにちょっと・・・」
 半泣きでレオを睨むユリウスの顔を見てさすがに申し訳なくなってきたレオが提案するがエドは首を振り、ルチアなどは「若いうちの恥はかき捨てだ」とはやし立てている。