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七ケ島 鏡一
七ケ島 鏡一
novelistID. 44756
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グランボルカ戦記 2 御前試合

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 三日目、授業そっちのけで二人はユリウスの事を話し合っていた。
「これは由々しき事態ですじゃ・・・。」
「そうね。あいつを何とかしないと大変なことになるわ。レオに、デールさんに・・・今はいないけど、このままだとヘクトールあたりも被害に合うかもしれない。」
「・・・うぬ?被害者はソフィアやアンジェではないのか?」
 キャシーは首をかしげるリュリュの肩に手を載せて首を振った。
「リュリュももう少し大人になればわかるけど、この場合はね、相手をあの鬼畜眼鏡にとられた人が被害者なのよ。」
「ふむ、なるほど。わからないでもないが・・・それにしてもお師匠。」
「うん?」
「お師匠はユリウスに対しては物言いに遠慮がないのう。それに、奴のことになると何か必死な気がしないでもないが。もしかしてお師匠・・・。」
「あ、そういうんじゃ全然ないのよ。あいつは弟みたいなものだし。」
 リュリュの問いかけに全く動じずに、キャシーが笑った。
「私、ヘクトールの従兄弟だからリシエールがなくなった後、ヘクトールと一緒に実家に転がり込んできたエドとユリウスとあと、今リシエール騎士団の団長をしているシエルと一緒に暮らしていたの。そのせいかな、ユリウスをそういう対象としては見られないのよ。まあ、それだけに今みたいな状況をほうっておくわけにも行かないんだけど。」
「お師匠とヘクトールが従兄弟・・・ふむ。全然似てないのう。じゃが、お師匠の言いたいことはわかりました。リュリュもジゼル姉様や兄様が今のユリウスと同じようなことをしておったら、止めに入るでしょうし。そういうことでしょう?」
「そういうこと。今日は見つけたら現場を押さえて、ユリウスを問い詰めて反省させましょう。」
「わかりましたのじゃ。がんばりましょう、お師匠!」
「うん、その意気よリュリュ。この軍の風紀は。」
「リュリュたちが守りますのじゃ。」
 そう言って拳と気炎をあげると、二人はそそくさと部屋を出ていった。
 その日はユリウスが部屋から出てくるのを待っていたお陰で調査がはかどった。
 しかし、城から出たユリウスが待ち合わせをしていた相手を知って、二人は、やっぱりやめておけばよかったと思った。
 いや、思ったのはリュリュだけだが。
「・・・フォヌカポぅ、お、皇子来たぁ!ちょ、リュリュ、皇子よ皇子。皇子と王子よ。」
「・・・お、お師匠?少し落ち着いて欲しいのじゃ。」
「だ、だってリュリュ。皇子よ皇子。甘美なる男色の世界よ」
 リュリュは何かのスイッチが入ってしまったらしく大興奮しているキャシーを大人しくさせようとするが、興奮状態のキャシーは気色の悪い笑顔を満面に浮かべて手をバタバタと動かしている。
 どうやら彼女にとってアレクシスとユリウスという組み合わせは、この三日間の組み合わせの中で一番のお気に入りの組み合わせであったらしい。
「と、とにかくお師匠。少し静かに。これでは尾行になりません。兄様とユリウスに見つかってしまいます。」
「そ・・・そうね。・・・ふぅ・・・。よし、もう大丈夫よ。さ、行きましょうリュリュ。」
 リュリュに言われて深呼吸すると、キャシーはいくらか平静を取り戻し、ユリウス達のいた方を振り返るが、そこに居たはずの二人は忽然と姿を消していた。
「あ・・れ?」
「あれ?ではありませぬ。二人ならとっくにそこの角を折れてゆきました。」
 深くため息を着くリュリュに向かって、キャシーは申し訳なさそうに手を合わせた。
「ご、ごめんねリュリュ。もうこんなことは無いように気をつけるから。」
「・・・本当にそうしてほしいものですじゃ。とにかく、追いましょう。」
 そう言うとリュリュが先に立ち走りだしたが、ユリウス達が曲がった角を曲がろうとしたところで二人は誰かにぶつかった。
 反動で後ろに倒れそうになった二人は、すんでのところで手を引かれ、尻餅はつかずに済んだ。しかし、そのぶつかった相手を見て、リュリュとキャシーは驚いた。。
「・・・に、兄様?」
「皇子・・・?」
「大丈夫かいリュリュ。それにキャシーも。」
「は、はい。」
「大丈夫ですじゃ。」
「そう。それはよかった。ところで、こんなところで二人揃ってどうしたんだい?」
「え・・・?えーっと・・・それはその。あれですじゃ。のう、お師匠。」
「え?あ、そうなんです。あれ・・・えーっとその。授業で使う資料を探しに。」
「そうか。じゃあ、僕も付き合うよ。女性だけでは荷物が多くなったときに大変だろう。」
「え・・ええっ?兄様自らですか?そ、そんなおそれ多いこと・・・。」
「そうですよ、いけません皇子。そんなことをされてはアリスに怒られてしまいます。」 とっさについた嘘に殊の外アレクシスが乗り気なのを見て、二人は大いに慌てた。
「いいからいいから。二人のその白魚のように美しい手に重い資材をもたせるわけにもいかないだろう。それに、リュリュがどんなふうにキャシーの授業を受けているのかも気になるしね。」
「ですから、兄様。お師匠の言うとおり、そんなことをされてはアリスに・・・。」
「あら、私がどうかしましたか、リュリュ様。」
 そう言ってアリスがアレクシスの背後からひょっこり顔を出した。
「あ・・・アリス。べ、別にお主がどうこう言うわけではないのじゃ。」
「そうですか?・・・でも今、キャシーは私が怒るとか怒らないとか言ってましたよね。」
「ぬ・・・ぬう。」
「わたし、そんなに怒りっぽいですか?」
「い・・・いや。その・・・。」
「ねえ、キャシー。私ってそんなに怒りっぽい?」
「それはその・・・言葉のあやっていうか。」
「まあまあ、アリス。二人が困っているじゃないか。二人だって悪気があったわけじゃないんだし。」
「はぁ。ほんとに、アレクはリュリュ様には甘いんだから。」
「え?何?」
「なんでもありません。では私はもう行きますけど、あまりリュリュ様を甘やかしたり、うっかりみっともない行動を取らないようにしてくださいね。」
「わ、解ってるよ。」
「本当かしら。」
「本当だって。」
『兄様。リュリュはあの屋台の果物が食べたいのですじゃ。』
「うん、どれだいリュリュ兄様が何でも買って・・・あ。」
 リュリュに言われた気がして振り返ったアレクシスは、リュリュの口が動いておらず、むしろ何故アレクシスが振り返ったのかわからないといった様子で小首をかしげているのを見て、アリスの魔法にしてやられたと気がついた。
 案の定、アレクシスがアリスの方を向くと、彼女は半目でアレクシスを睨んでいた。
「・・・アレク。」
「はい・・・気を付けます。」
「あまりみっともない姿や表情を国民に晒さないようにしてくださいね。では、わたしはこれで。」
 大きなため息をついて、改めてアレクシスに釘を刺すと、アリスは踵を返して、路地裏へと消えていった。
「前々から思っていたのじゃが、アリスは一体何者なのじゃろう・・・。」
「あ、私も気になってた。アレクシス様をアレクなんて呼び捨てで呼ぶし。お二人はどういう関係なんですか?」
「どういうって・・・そうだなあ、彼女は僕にとって怖い姉のような存在かな。多分、キャシーとユリウス王子の関係に近いと思うよ。」