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七ケ島 鏡一
七ケ島 鏡一
novelistID. 44756
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グランボルカ戦記 2 御前試合

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 次の日の夜明け前、作戦はつつがなく終了した。
 寝入っている見張りのゴブリンやコボルトたちを殲滅し、見事に人質を開放した六人は、街の人たちに大歓迎を受け、知らせを受けて後詰めで駆けつけたアレクシス達も6人を褒め称え、すぐに祝宴が行われた。
 そして後日クロエは約束通りエドに料理の指南をした。エドの料理の筋は悪くなく、あっという間に上達して、クロエと同じ味の料理が作れるようになった。
 そして、エドはやはりアレクシスにその料理を振舞い、アレクシスはその料理の味に感動して、改めてエドに婚姻を申し込み、エドもこれを受け入れて、二人は結婚した。
「ま、いつまでもクヨクヨしてねえで、新しい恋でも探すんだな。クロちゃん若いんだし、性格はともかく美人なんだからよ。」
 二人の結婚披露宴のあと、クロエの様子を見かねて連れだしてくれたレオがカフェのテラスの向かいの席でそう言って笑う。
「うん・・・。そう・・・だね。」
 対するクロエは、元気がなく、肩が落ち、背中も丸まっていた。
「ほら、そんな顔すんなって。同僚で良い感じの男紹介してやるからさ。」
「いい。ごめんね。ちょっと一人になりたい。」
「そっか、んじゃ俺は行くから、気が向いたら声かけろよ。」
「ありがと・・・ねえ、レオ。」
「ん・・・?」
「あんた昔、あたしの事好きだって言ってくれたことあったじゃない?もしさ、もし・・・今、あたしが・・・。」
「あ、レオくんいた!おーい、レオくーん!」
「うわ・・・見つかっちまった。今行くー・・・で、クロちゃんがなんだって?」 
「・・・ううん。何でもない。そっちもお幸せにね。」
 そう言ってレオを見送った後で、クロエは激しい自己嫌悪に陥った。
 今、自分は何を言おうとした?
 自分は、何をしてほしかった?
 そのことがクロエの頭の中でうずをまき、いつまでもいつまでもグルグルと回り続ける。
 嫌だ。こんなの、嫌だ。全部、消えて欲しい。消えて欲しい・・・。
 クロエはそう願いながら、意識を失った。
「だからあの時、殺しちゃえばって言ったんですよ。」
 いつの間にか眠ってしまっていたらしいクロエは、男の声で目が覚めた。
 クロエが目を開けると、そこは知らない部屋だった。
「おはようございます、クロエさん。」
 笑顔でそう挨拶をした相手を見たクロエは顔から血の気が引いた。
「え・・・ルー?何で?」
「やだなあ、クロエさんが寂しいから慰めてくれって言ったんじゃないですか。」
 ルーは、そう言って、裸の上半身を起こした。
「あ・・あたしそんなこと言って・・・」
 言ってない・・?
 本当に・・・?
 寂しくない?
 誰かにそばに居て欲しくない?
「一番好きだった皇子がエーデルガルド姫とくっついて、親しくしていたレオさんの側にもソフィアさんが居て。それで僕に慰めて欲しいって言ってきたんですよ。」
「そんなことっ!そんなこと・・・そんなこと・・・。」
 嫌だ!認めたくない!こんなの、こんな現実消えて欲しい。頭を振りながら拒絶するクロエの頭の中に、スルリと誰かの言葉が入り込んでくる。
 でも、言った。
 言ったんじゃないの?
「貴女は言うわよ。そういうこと。」
 アリスが、そう言って笑いながら真っ赤なローズヒップティーを口に運んだ。
「言わないわよ!そんなこと言うわけ無いじゃない!」
「あら、何をそんなに怒っているのかしら。もしかして、図星を突かれて怒っているの?」
「図星なんかじゃない!私はそんなこと・・・。」
「まあまあ、落ち着いて。貴女も一杯いかが?」
 アリスはそう言って立ち上がると、壁に取り付けられたコックからティーカップにローズヒップティを注ぎ、クロエに渡した。
「落ち着くわよ。」
 クロエは言われるがまま、アリスからカップを受け取ってその中身を口に運ぶと、すぐにその中身を吐き出した。
「なにこれ・・・血・・?」
「あら?お気に召さなかった?」
「気に入るわけ無いでしょう!」
「あらあら・・・でも、これは、あなたが羨んで、憧れて、望んでいた幸せの味のはずよ。」
 そう言ってアリスが壁にかかっていたカーテンを引くと、壁一面に数々の透明な硝子の水槽が設置されており、それぞれの中に人間の生首が入っていた。
 あるものにはレオとソフィアのものが。
 その隣にはルーの物もある。
 そして、先程アリスがカップに注いだコックには、アレクシスとエーデルガルドの水槽がつながっていた。
 アリスはそのコックをひねって自分のカップへと注ぐと、美味しそうにそれを飲んだ。
「アリス・・・あんた何してんのよ!」
「アリス?・・・何言ってるの?わたしは、アリスじゃなくて、あなた自身じゃない。だってほら、アリスならそこに。」
 そう言ってもう一人のクロエが指さした先には、確かにアリスの首の浮かんだ水槽があった。
「これが、あなたの・・・私の望んだ世界。あなた、全部いらないって言ったわよね。全部なくなっちゃえばいいって思ったわよね。ここはそれが全部叶う世界。自分に失望して、消えてしまいたいと願ったあなたの、からっぽのせかい。全部欲しいと願った強欲なわたしのすべてが手に入る世界。さあ、あなたもみんなと一緒に消えてしまいなさい。そして、みんなと一緒にずっと変わらずにここにいるの。」
「みんなと・・・一緒?」
「そう。一緒よ。みんなで一緒に消えれば、なにも怖いことなんか無いでしょう。もう、獣に襲われて森の奥で怯えることも、皇子がエーデルガルドに取られることも、レオやルーとの関係が壊れることも、何も気にしなくていいの。ねぇ?素敵な世界でしょう?もう何も考えなくていいの。だって、ずっと一緒で、ずっと変わらないんだもの。」
「だったら・・・そのほうが・・・。」

『約束したからね』

 もう一人の自分の手を取ろうとしたクロエの頭に、誰かの声が響く。

『約束したんだから・・・あきらめないで。』

『ちゃんと、約束守ってよ!』
「何・・・?」
 突然、部屋の天井が裂け、部屋の中はその裂け目から溢れでた光に包まれ、その光のなかから一本の手が差し伸べられる。
「これは・・・何?・・・どういうこと・・・・?」
「クロエ!手を伸ばして!」
 その声に導かれるようにして、クロエは天井からのびた手を取った。
 クロエが手を取ると、その手は猛烈な勢いで、クロエを光の中へと引き上げる。
 その眩しさに、クロエが思わず目をつぶる。