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七ケ島 鏡一
七ケ島 鏡一
novelistID. 44756
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グランボルカ戦記 2 御前試合

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 光が収まり、クロエが目を開けると、目の前には涙を浮かべたエドの顔があった。
「よかった・・・生きてた。」
「え・・・エーデルガルド様?どうして?あなたは死んだんじゃ・・?」
「なに言ってんの。死にかけてたのはクロエの方だよ。見張り達を倒した後で、いきなり地面から生えてきたアルラウネから私をかばって取り込まれていたんだよ。わたしはクロエのお陰で死ぬどころか怪我だってしてないよ。ほら下を見てみて。あれ、覚えてない?」
 そう言ってエドの言う通りにクロエが下をみると、遙か下の地面にそれらしき緑色の巨大な花のような物体があった。そしてそれを見下ろしたところで、クロエは自分が空中に浮かんでいることに初めて気がついた。
「え・・・?飛んでる?」
「うん、アレクとリュリュが炎を使えるように、私は風を扱えるから。それよりクロエ、痛い所とかない?大丈夫?」
 ゆるゆると地上に向かって降下を始めながらエドがクロエに尋ねる。
「だ、大丈夫だと・・・思います。」
「そう。よかった。」
 そう言って安心したように笑うエドの笑顔は、どことなく、アレクシスと同じ暖かさがあった。
「ねえクロエ、アルラウネの花の周りにあるがくが邪魔でこっちの攻撃が殆ど効かないんだ。でもレオが、クロエなら魔法で内部からなんとか出来るって言うんだけど、わかる?」
「レオが?・・・ああ、なるほど。解りました。」
「よかった、心当たりあるんだね。何か私に手伝えることあるかな。」
「いえ。ここからは一人で大丈夫です。私は少し必要な物を調達に行ってきますから、エーデルガルド様は皆をなるべくあのアルラウネから離れさせてください。」
「でも、ここから一人って・・・。」
「私の能力は、空間転移ですよ。エーデルガルド様。」
 クロエはそう言うと、エドの腕から、すっと消えた。

 クロエの指示通り全員が退避を終えてからしばらくして、クロエはアルラウネと正面から対峙していた。
 背後には、大量のタルが置かれている。
 クロエがアルラウネに向かって、腕を振ると、大量のタルはどこかへと消えていた。そして、クロエはマッチに火をつけるとそれを投げ捨て、投げ捨てられたマッチも、地面に落ちることなく、どこかへと消える。
 そして、アルラウネは突如爆発を起こした。
「おー・・・随分盛大にやったな。」
 いつの間にか、隣にやってきていたレオが火柱を見上げながらつぶやく。
「そりゃあ盛大にもなるわよ。砦の中の火薬全部持ってきたし。」
「うわ、もったいねえ。」
「いいのよ。あんな変態のぞき見野郎、一思いにやったほうが世の中のためなんだから。」
「変態?捕まってた時、何かされたのか。」
「ん・・・まあ、ちょっとね。・・・って、赤くなって何想像してんの?ば、バカじゃないの?」
「だ・・・だってよ、クロちゃん何かヌメヌメしてるし。そ、そういう想像になっちまうだろ。」
 顔を赤くして、なんとなく腰が引けているレオに言われて気がついたが、確かにクロエは、アルラウネの粘液らしいもので、服がところどころ溶け、少し艶かしい状態になっていた。
「うわっ、変態!最低!」
「少し甘い香りもしますね。これは媚薬か何かでしょうか。そういえば、アルラウネは捕まえた獲物を逃さないために、催眠状態にすると聞いたことがありますね。・・・で、どうでしたクロエさん。気持よかったですか?」
「どうもこうもあるか!死ね変態共!」
 そう言いながら繰り出したクロエの蹴りをかわして、レオとルーが逃げていく。
「いいなあ、楽しそう・・・」
「楽しくなんかないわよ!・・・あ。」
 エドのつぶやきにクロエが答えるが、クロエは自分の言葉遣いに気がついて慌てて口を抑えた。
「クロエ・・・。」
「あ、その・・・申し訳ありません。エーデルガルド様」
 クロエは慌てて頭を下げて謝罪するが、エドは口をへの字に曲げて首を横に振った。
「ダメ。許さない。」
 まさかここで許さないと言われるとは思わず、クロエは困惑した。
「エドって呼んでくれないと許さない。あと、レオ達と同じように接してくれないと許さない。」
「え・・・?」
「アリスに聞いたんだけど、わたしたち同じ歳らしいし、本当はもっと仲良くしたいなって思ってたんだ。ねえ、クロエ。私、様をつけられるの好きじゃないし、エドって呼んでよ。もっと気軽にさ。」
 そう言ってエドは結んでいた口を開いてにっこりと笑った。
「で・・・でも。」
「じゃあ、アリスにあることないこと言いつける。あとヌメヌメの事とか。ヌラヌラのこととか、アレクとか皆に言いふらす。」
「はぁっ?なんでそうなるのよ!・・・うっ。」
「そうそう、その調子ほらクロエ、頑張って。」
 そう言って楽しそうに手を叩くエドを見て、クロエは助けを求めるようにヘクトールの方を向くがヘクトールは諦めたようにフルフルと首をふるだけだ。しかたなしに、エドを指さして、いいのかと確認をすると、ヘクトールはコクコクと頷いた。
「そう・・・だったら遠慮しないわ。エド、最初に言っておくけど、あたしあんたのこと嫌いだから。」
「ええっ?いきなり?」
「この旅の間ずーっと気になってたんだけど、大口開けて笑うわ、寝るときも無防備だわ、髪に櫛すら通さないで適当に結くわ・・・あんた女の子として自覚なさすぎなのよ!あたしそういうの大っキライなの!大体、そんなことで意中の殿方に好きになってもらえると思ってるの?何?女なめてんの?」
「う・・・それは・・・その・・・まあ。確かに」
 クロエの指摘にエドがシュンとして肩を落とす。
「でもさ、クロちゃん的にはその方がいいんじゃねえのか。奴がエドに女を感じないなら、自然と奴の興味は別のところに行くわけだし。」
 少し離れた所でその様子を見ていたレオが首を傾げるが、ルーファスはチッチッチと指を振って口を開いた。 
「甘いですね、レオさん。こういうことは相手が低いステージにいるから有利というわけでもないのですよ。現時点で皇子がエーデルガルド様を好きであるならば、彼女と勝負する為には自分のステージをあそこまで落とす必要がでてくるかもしれない。しかし、プライドの高いクロエさんはそれをすることができない。しかし逆にエーデルガルド様のステージを上げれば、あの人は自分と同じステージの女を見てくれるようになる。そういう計算があるんですよ。」
「おお、なるほど。さすがクロちゃん腹黒い。」
「チッ。」
 クロエが舌打ちをして指を鳴らすと、レオとルーファスは上空2メートルほどの所へと投げ出される。
 急に空間転移をさせられた二人は受身も取れずに無様に地面に落ちた。
「外野は黙ってなさい。解った?」
「はーい。」
「へーい。」
「大体ろくに手入れもしてないのに、なによこの肌。不公平よ不公平。」
 クロエがそう言ってエドの頬を掴んで横に引き伸ばす。
「い、いひゃい・・・いひゃいよくろへ。」
「んー・・・仲よきことは美しきかな。にゃんてね。」
「え、あれって仲がいいんですか?」
「そうはみえないんだけどにゃあ・・・。」
「いいんじゃない?まあ、お友達は多いに越したことはないでしょ。」