土産
「食べないの?」
キミの声に 頭の中に浮かんでいたものが、消えた。
(あれ、何か聞いていたよな? )
お土産の包みを開けると、キミの指が、その小さな菓子をひとつ摘み上げた。
「はい、あーん」
「え?あーんってねぇ」
「誰も見てないよ。はい、あーん」
誰が見ていようと見ていなくても、恥ずかしいんだ。
だが、口の前のキミの指先に摘まれた小さな菓子を食べないわけにはいかない。
「あ、指食べちゃ駄目だよ」
「あはは。うん、食べないよ」
(また、いつもと同じだ)
こんなやりとりの繰り返しも とても楽しく思えた。
ボクは、大口を開けて、キミの指まで咥えた。
「あ、食べちゃ駄目でしょ!ねえ、ねえ…もう…ねえってばぁ」
ボクは、そのまま頬を引き攣らせながら、口の中に甘さと僅かなしょっぱさを感じた。
「ん」
キミの手を掴んで、口を離した。
「手!帰って来てから 手を洗った?」
「あれ?」
小首を傾げ、視線が空(くう)を彷徨った。
(なんてヤツだ。ふっ…)
「出かけようか。今日は、万年筆の調子が悪い。ボクも外の空気吸わないとね」
このまま、この部屋でキミに質問ばかりしても、たぶん答えはでないだろう。
「お買い物するの?」
「いや、お出かけ。そうだ、キミの歩くところを探検しようかな、猫の散歩だ」
「どうして、猫?」
「さあ?ははは。はい、温かくして行くよ」
ボクは、立ち上がり、キミの髪をくしゃくしゃっと撫でると、隣室に着替えに入った。