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土産

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 机の上の片っぽだけの柔らかな毛糸の手袋がしな垂れて、見ようによってはガッツポーズをしているようだ。
(よし!手袋も応援してくれているぞ)
「あ、手袋、片方落としていったでしょ。はい、ここにあるよ」
(よし!とりあえず、出だしは順調だ)
「ありがとう。もう片方はその前に失くしちゃったの」
「…あ、そうなんだ。んじゃあ、置いていったのか」
キミは、頷く。
「何処……キミの自由だけど、何も言わずに出かけてしまうのはどうかなぁ」
「手袋で『行ってきます』を表してみました」
(やっぱり、あれは 暗号だったのか。これは正解!)
「あれじゃあ行き先も、いつ帰るかもわからないでしょ」
「そうだね」
(キミは、何て笑顔をボクに向けるんだ)
文句のひとつひとつが、プチンプチンと弾けて消えていってしまいそうだった。
「どうしたの?……どうして、連絡くれなかったの?」
キミは、笑顔を作ったまま、いや、何とか保ちながら困った顔をした。
そして、人差し指を唇の前に立ててみせる。
「内緒?」
キミは、また笑顔で頷く。
 ボクは、椅子から立ち上がり、キミの座っている敷物の上に身を移した。
卓袱台を退けて、キミの正面に座った。
「話そう……ってまず何から話そうか?」
キミは、横に置いてあった紙袋から包みを取り出した。
「はい、お土産」
ボクは、受け取りながら、観察する。お土産を。その入っていた紙袋を。
キミの行方の手掛かりになりそうなものは、ないだろうかと。
ちょっとした探偵気分。本当は、もっと切羽詰った気持ちではあった。
 キミが、たたんだ紙袋を置いた時、キミのバッグが倒れた。中身が、僅かに飛び出した。
慌ててしまうその中に ボクの記憶の引き出しをひとつ開けるものが目に止まった。
(あれ?今のって……いや、見間違いかもしれないし)
「へえ、お土産かぁ。なんだ、旅行してきたんだ。何処へ行って来たの?」
よく見ると、知った百貨店のシールの端キレがくっついている。
おそらく、百貨店の催事場の物産展ででも購入してきたのだろう。
作品名:土産 作家名:甜茶