大山豆腐
昔、江戸に大工の喜助という若者がおりました。
この喜助が大山にお参りに行くことになりました。
喜助はそれほど信心深い男ではありませんでしたが、昔のお参りは今で言う旅行みたいなものだったのです。それも昔は簡単に旅行は出来ませんでした。
喜助はとても嬉しかったのか、皆に大山に行くことを言い触らして回りました。
その話が同じ長屋に住むご隠居さんの耳にも入りました。このご隠居さんは近所でも大層物知りで有名で、いろんな所にも行ったことがあるようです。ご隠居さんは早速、喜助を呼びました。
「これ、喜助や。お前さん、大山参りに行くそうじゃな」
「へえ……」
実は喜助はこのご隠居さんがあまり好きではありませんでした。いつも自慢話を聞かせるだけでなく、何かにつけてお説教をするのです。それにちょっと厭味です。
「そこでお前さんに、折り入って頼みがあるんじゃがのう。餞別をやるから大山豆腐を土産に買ってきてはくれんか?」
「大山……豆腐ですか?」
「さよう。学の無いお前さんは知らんかもしれんが……」
出ました、出ました。ご隠居さんの厭味です。喜助は嫌な顔をしています。そんなことも気付かずに、ご隠居さんは話を続けます。
「大山はな、豆腐が名物でな。そこの豆腐は、そりゃ美味いのなんのって」
「ご隠居さんはその豆腐を食べたことあるんですか?」
「えっ、わしか? そりゃ、もちろん食ったことがあるぞ。あのとろけるような舌触り、一度食ったら忘れんて」
実はこのご隠居さん、大山参りをしたこともなければ、大山豆腐を食べたこともありませんでした。それどころか、ご隠居さんの話はみんな人から聞いた話ばかりでした。
ご隠居さんは喜助に「大山豆腐を食べたことがあるか」と聞かれ、「ない」とは言えず、思わず「食べたことがある」と言ってしまったのでした。
こうしてご隠居さんからお餞別を貰った喜助は大山参りへと出掛けました。とは言っても、今のように電車やバスがあるわけではありません。江戸から大山までは歩いて行かねばなりませんでした。大人の足でも二日はかかります。
喜助は無事に大山までたどり着き、お参りをしました。そして麓まで下ってくると、豆腐料理のお店や、豆腐屋さんが並んでいます。
喜助はお店に入ると、豆腐料理を食べながらお酒を飲みました。
「こりゃ、美味い豆腐だ。これが噂に聞く大山豆腐か」
この喜助が大山にお参りに行くことになりました。
喜助はそれほど信心深い男ではありませんでしたが、昔のお参りは今で言う旅行みたいなものだったのです。それも昔は簡単に旅行は出来ませんでした。
喜助はとても嬉しかったのか、皆に大山に行くことを言い触らして回りました。
その話が同じ長屋に住むご隠居さんの耳にも入りました。このご隠居さんは近所でも大層物知りで有名で、いろんな所にも行ったことがあるようです。ご隠居さんは早速、喜助を呼びました。
「これ、喜助や。お前さん、大山参りに行くそうじゃな」
「へえ……」
実は喜助はこのご隠居さんがあまり好きではありませんでした。いつも自慢話を聞かせるだけでなく、何かにつけてお説教をするのです。それにちょっと厭味です。
「そこでお前さんに、折り入って頼みがあるんじゃがのう。餞別をやるから大山豆腐を土産に買ってきてはくれんか?」
「大山……豆腐ですか?」
「さよう。学の無いお前さんは知らんかもしれんが……」
出ました、出ました。ご隠居さんの厭味です。喜助は嫌な顔をしています。そんなことも気付かずに、ご隠居さんは話を続けます。
「大山はな、豆腐が名物でな。そこの豆腐は、そりゃ美味いのなんのって」
「ご隠居さんはその豆腐を食べたことあるんですか?」
「えっ、わしか? そりゃ、もちろん食ったことがあるぞ。あのとろけるような舌触り、一度食ったら忘れんて」
実はこのご隠居さん、大山参りをしたこともなければ、大山豆腐を食べたこともありませんでした。それどころか、ご隠居さんの話はみんな人から聞いた話ばかりでした。
ご隠居さんは喜助に「大山豆腐を食べたことがあるか」と聞かれ、「ない」とは言えず、思わず「食べたことがある」と言ってしまったのでした。
こうしてご隠居さんからお餞別を貰った喜助は大山参りへと出掛けました。とは言っても、今のように電車やバスがあるわけではありません。江戸から大山までは歩いて行かねばなりませんでした。大人の足でも二日はかかります。
喜助は無事に大山までたどり着き、お参りをしました。そして麓まで下ってくると、豆腐料理のお店や、豆腐屋さんが並んでいます。
喜助はお店に入ると、豆腐料理を食べながらお酒を飲みました。
「こりゃ、美味い豆腐だ。これが噂に聞く大山豆腐か」