DESTINY BREAKER 一章 4
風邪を引くから気を付けてって
大切な人を守りたかった
守りたかっただけなんだ
『そう、それがそなたの素直な心。そなたの本当の気持ち』
言葉はきわめて優しく私の胸に響いた。
「私の素直な心?本当の気持ち?」
『そなたはわかっているはずだ。起こりうる未来を友に告げたのは傷つけるためではないということを』
私自身の未来が見えなかったから、みんなも自分自身の未来が見えないのだと思った。
だから・・・
『そなたの力は誰(た)がためにあるのだ?』
「誰のため?」
『そなたにしかない力は誰がためにあるのだ?』
「私にしかない力?」
『そなた自身のためか?』
私に自分のことはわからない
みんなも自分自身のことはわからない
でも私だけはみんなのことがわかる
『再び問う。そなたにしかない力は誰がためにあるのだ?』
私にしか見えないからこの力にもきっと意味がある
だからきっと―――
『どうするかはそなたの自由。』
その声が優しそうな女性の声であることにいまさら気付く、そして問いかけられた。
『再び問う。あの少女を救わぬのか?』
私は目を開いた。
同時に体は足は外に向かって駆け出した。
私にしか見えない
私にしかわからない
私にしか《救えない》
私は夢中であの場所へ
私が見たあの場所へ走った。
間に合え。間に合え。間に合え――――。
最近、ろくに運動をしていない脚の筋肉は軋み、心臓は悲鳴をあげる。
スニーカーを履く余裕はなく足は裸足で地を蹴っていた。
それでも・・・
ただ速く、速く、疾(はや)く――――。
その場所に少女はいた。
少女は泣いていた。
買い物の途中、道の真ん中で転んでしまったのだろう。
必死に手からこぼれ落ちた荷物をかき集めている。
少女の前方からは赤いスポーツカー。
屈んでいる少女は死角になって彼らの視覚に入らない。
間違えなく私がみた未来。
何も考えなかった。
思考は限りなくクリアになる。
ただ、私は少女に向かって跳んだ。
激しいブレーキの摩擦音はさながら女性の金切り声のように耳を貫き、グチャ!グシャ!という軟らかいものを踏み潰す音だけが無音の世界に木霊する。
―――小さな少女の散乱した荷物、それが潰れる音だった。
かすかに頭が痛む。少し打ちつけたかも。
その痛みを確認した後、私は抱きかかえているものを見た。
作品名:DESTINY BREAKER 一章 4 作家名:翡翠翠