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キラーマシンガール 後編

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 次の日、正午を少し回った頃白雪が部屋に現れた。何故か胸に真っ黒な猫を抱えていた。
 「どうしたの、それ」
 「庭でうとうとしてたらいつの間にか膝の上に乗っかってて。特に不審な点も見当たらなかったので連れてきちゃいました」
 「へぇー。勝手に連れ込んじゃって大丈夫なの?」
 「問題ないはずです。少なくとも操さんは怒らないと思います。あの人、ちっちゃい動物とか結構好きなんですよ」
 「凄まじく意外だ」
 猫は白雪の腕の中にすっぽりと収まり、キョロキョロといる。おとなしい子だ。
 「唯史さんも抱きます?ふわふわであったかいですよ」
 「お、それじゃあ」
 僕が手を伸ばし白雪がベッドに近づくと、黒猫はにゃっと白雪の胸から飛び出し僕の懐に突っ込んできた。
 「うぉっ、人に慣れてるな」
 猫は僕の膝の上で体を丸め、小さな口をいっぱいに開けてあくびをした。
 「くはぁーっ。かわいいです。撫でちゃだめですかね?撫でくり回しちゃだめですかね!?」
 白雪は目をキラキラ輝かせて言った。ここまで興奮した白雪を見るのは初めてだ。
 「確かにかわいいな……めっちゃくちゃかわいい」
 手触りといい暖かさといい、底知れぬ魔力を持ってるなこの生き物は……。
 「あぁそういえば白雪。昨日の夜部屋に来た時のことなんだけどさ」
 僕は猫の柔らかい毛を手のひら全体で優しく撫で付けながら言った。
 「き、あれ忘れて下さい!あるじゃないですか何か気分が落ち込んじゃうことって」
 白雪は慌てた様子で僕の言葉を遮る。
 「いや。朝、操さんに聞いたんだよ。白雪が仕事で心を患ってて、その……暴れることがあるって」
 「そんな」白雪は眉根を寄せて今にも泣きそうな表情になる。
 「全部聞いちゃったんですか……」
 「うん……」
 「……私、唯史さんにそういう子だって目で見られたくなかったです」
 「あんな話聞いたくらいじゃ何も変わったりしないよ」
 「ほんとう?」
 前のめりになって、懇願するように聞く白雪。
 「ほんとう。まだ付き合いは短いけど、白雪がどういう子かってある程度はわかってるつもりだよ、僕」
 「唯史さん……ありがとう」
 白雪の潤んだ瞳で僕を捉えていた。『彼女はあなたに対して恋愛感情かそれに近いものを抱いているわ』……操が言っていたことをふと思い出す。部屋全体に得体の知れない甘ったるい空気が充満している。なんだか胸がどきどきしてきた。
 「失礼。あら、かわいい猫」
 そんな雰囲気を扉を開けて現れた操がかき消した。タバコをくわえている。白雪は慌てて元の姿勢に戻り目蓋に溜まった涙を両手で拭った。
 「まったくどこから入ってきたのかしら。虫一匹入れないようにって警備には言ってあるのに」
 「操さん、タバコ吸うんですね」
 「ん、たまにね。年に一回くらいよ」
 操は慣れない仕草でタバコに口をつけ、軽く咳き込みながら煙を吐き出した。
 「そうそう、忘れるところだった。新しい依頼が来たからその話をしようと思ってたんだけど。あ、そのまま聞いてもらっていいわよ」
 立ち上がろうとする白雪を操は制する。
 「え、でも」
 「唯史にも関係のある話だから。はい、これ」
 操は脇に抱えた大き目の茶色い封筒をポケットから取り出し僕と白雪に手渡した。
 「今度の仕事なんだけど。どうかしら、唯史も連れて行ってみるっていうのは」
 「操さん!?」
 「落ち着きなさい白雪。ちゃんと説明するから」
 「どうしてですか!?そういう扱いはしない、って最初に私と約束したじゃないですか!!」
 白雪は立ち上がり、声を荒げた。
 「唯史だって機械義肢よ。これから先様々な危険にさらされる訳だし、自分の身は自分で守れるようになって欲しいじゃない」
 「それならわざわざこんな危険な真似しなくたって……」
 「今回のは研究施設に侵入して資料を廃棄するだけの簡単な仕事だし、大した戦闘力をもった人間もいないでしょう。命のやり取りをするような任務ではないわ。こういう楽な依頼は稀だからせっかくだと思って」
 「不測の事態が発生する可能性もあります。場合によっては命の危険だって……」
 「そんなのはどんなことにだってつき物でしょ。唯史が素人でも、そうでなくてもね」
 「……唯史さんは、それでいいんですか?」
 「ああ、やるよ。これから先、この世界で生きていくんなら適応していかなくちゃならないだろう」 
 「……だめです。だめですよ、こんなの」
 「仕事は三日後よ。唯史がまた仕事に参加するかどうかはそれを終えてから決めましょう。とりあえず試しに一回ってことで。ね、白雪」
 操が言い聞かせるように言う。
 「……唯史さんは私が守ります」
 そう言って白雪は部屋を出ていってしまった。
 「あの子があんなに食い下がるなんて。初めてのことだわ」
 「え?」
 「言ったでしょ、あの子は私が買った奴隷だって。原則的に私に口答えすることは許されていないの。どんなに痛い思いしたってあんな口答えをしたことは一度もなかった。本当に我慢できなくなった時はああやって話すのを放棄したりするんだけどね」
 操は開けっ放しの扉を見つめていた。
 「私が守る、ですって。宣戦布告されちゃったわ。……あの子は本当にあなたのことが好きなのね。白雪が何よりも恐れているのはね、唯史。自分が我を失ってあなたを傷つけてしまうことよ」
 「やけに細かい分析ですね。そんなことまでわかるんですか?」
 「さすがに機械はそこまで万能じゃないわ。でもね、そういうことが機械使わなくたってわかる時があるのよ。たまにね」