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キラーマシンガール 後編

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 翌日、昼食の時間が終わるとと操が部屋に顔を出した。珍しいことだ。彼女に昨日のことを聞いても問題はないだろうか。僕は少し迷ったが、今の僕は操以外から確かな情報を得る術がない。
 「操さん」
 「なあに」
 「白雪、昨日は仕事だったんですか」
 「ええ。結構ハードな内容だったみたいね」
 操はカルテに何かを書き綴りながら、僕の声に応えていた。
 「人、殺したんですね?」
 「……ええ。ちょっとトラブルがあってね。たくさん殺したわ。それがどうかした?」
 「昨日の晩、仕事を終えた白雪が部屋に来たんです。それで何か苦しんでる様子だったから……」
 「好きで人の命を奪ってるわけじゃないからね。そんな日もあるでしょう」
 「それじゃあ白雪はどうしてこんな仕事をしているんですか?」
 「ちょっと答え辛い質問ね。……唯史はどうしてそんなに白雪のことが気にかけるの?」
 「気にもなりますよ。あの歳で人を殺すなんて普通じゃないでしょう」
 それを聞いた操さんは少し驚いたような顔をして、その後何故か笑みを浮かべた。
 「……そうね。だったら白雪の過去から現在にかけての話をするのが一番簡単かしらね。わたしからすれば白雪の理解者が増えるのはとても嬉しいことだけど、内容はかなりハードよ。私や白雪への見方が大きく変わってしまうと思う。聞いたら後悔するかもしれない」
 「お願いします。聞かせて下さい」
 「いいでしょう」操はベッドの上、僕のすぐ隣に腰掛けた。
 「あの子の体に機械義肢が移植されていることと、あの子が仕事で人を殺しているということは、もう知ってると思うけど。唯史、あなた白雪が体のどの部分を移植したかはもう聞いてる?」
 「はい。手足と内臓を幾つか、って」
 初めて彼女と話した日、確かにそう言っていた。それを聞いた操は頷いた。
 「うん、間違いない。それじゃもう少し詳しく説明するわ。彼女の言う手足ってのは文字通り両手両足全てを指すわ。肩から、大腿から指先まで全て機械でできてる。内臓は肺、心臓、小腸大腸あたりだったかな。私の作ったものと取り替えたわ。普通の人間より遥かにハイスペックなやつとね。あと一部の骨には手製の合成樹脂を流し込んで耐久度をアップさせてる」
 「どうしてそんなことを……」
 それじゃまるで、サイボーグじゃないか。
 「それは彼女が機械義肢を移植することを前提に私が買った奴隷だからよ」
 「買った?」
 「非合法に人間を売り買いできる場所があるのよ。当時機械義肢の技術は未熟なものだったから完成に近づくには人の体を使うのが一番手っ取り早かったから。更に、その実験と並行して機械義肢の性能の試験として私達の組織が引き受けている依頼のいくつかを彼女にこなしてもらった」
 「依頼……この前言っていたやつですか」
 「そう。情報収集や特定の人物の殺害が主な内容ね。性能を測るにはちょうど良かったから」
 「白雪は抵抗しなかったんですか」
 「しなかった。奴隷である彼女は私に抵抗することは許されていなかったの。義肢の研究は順調に進み、彼女の体はどんどん強化されていった。時たま仕事で失敗をして大きな怪我を負うこともあったけど、その時には損傷した部分を機械義肢で強化して更に戦闘能力を上げた。同時に人間からも遠ざかっていったけどね」
 無表情のまま、操は淡々と話を続ける。
 「でも、ある日問題が起こった。二年位前かな。何の前触れも無く、暴走を始めたの。突然我を失ったように叫びだして、周りのものを手当たりしだい傷つけ始めた。お陰で私も彼女達の仲間入り」
 操が自分の白衣の左腕の裾を捲り上げた。
 「機械義肢……」
 彼女の左肘には黒い線が走っていて、腕を一周していた。僕の左肩にあるものと同じ、生身と機械の境目。接続部分だ。
 「心の病に冒されてしまったみたい。小さな頃から溜まっていく一方だったストレスが臨海点に達したのね。昨日はあなたの部屋に行って慰めてもらったみたいだけど、それがなかったらまた暴れることになっていたと思うわ」
 「ひどい……どうにかできないんですか」
 「できないわ。彼女はね、私達にとって重要な研究対象なの。機械義肢の技術がこれだけの速度で進歩したのも彼女の存在があってのことよ。それもこれからは変わらない。彼女を解放することも処分することもしない。ある程度の被害が出てもね」
 「それじゃ事態は悪くなる一方じゃないですか……」
 「そうとも言い切れないわ。最近になって色々と事情が変わってきたのよ。これまで定期的に起こっていた白雪の暴走だけど、一週間くらい前からぱったりとそれが止んだの。どうしてかわかる?」
 「……いえ」
 「あなたと出会ったからよ。あの事件に巻き込まれてあなたに助けられたから。あの子の中を陣取ってたストレスの塊があなたと出会った頃から和らいでいっているみたい。彼女はあなたに対して恋愛感情かそれに近いものを抱いているわ」
 「恋愛感情……間違いないんですか?」
 「ええ、間違いないわ。小さな小さなチップをね、あの子の頭の中に埋め込んであるのよ。位置情報から彼女の気分まで、そいつが逐一様々な情報を送ってくれているの」
 「いかれてる……」
 思わず頭に浮かんだことをそのまま口に出してしまった。だけど僕はそれを訂正する気にはならなかった。操はそれを聞き流して話を続ける。
 「暴走が起これば怪我人や死者が出るし、白雪自身の体にも大きなダメージが残る。今まで黙っていたけどね、それを止めることができるのは唯史、あなただけなの。私達の先行きはあなたの行動一つに掛かってるのよ。これが白雪と私達の現状」
 「知りませんでした、白雪がそんな状態にあったなんて……」
 「あの子も意識して隠してたのね。自分が『普通』じゃないってことがあなたに知られて嫌われてしまうのが怖かったみたい」
 「気にすること無いのにそんなこと……」
 「普通の高校生って言うのは白雪にとって得体の知れない存在だからね。まだ距離感がわからないんじゃないかな。それで、白雪に関する話は一通り終わったわけだけど。あなたはこれからどうするつもり?」
 「……白雪の力になりたいです。僕にできることがあるみたいだから」
 「彼女の傍にいるのって凄く危険なことよ。わかってる?」
 「わかってますよ。でも僕以外に白雪を守れる人いないじゃないですか。彼女だけずっと傷ついてるじゃないですか」
 「私達は研究者だから。研究者である限りは白雪は実験体のモルモットだって扱わないといけないの。どんなに優しくしたって結局白雪の体を刻むことになるんだから」
 操は僕の顔を見つめていた。ほんの少しだけ、笑っているように見えた。
 「……どうしてこんな実験を続けるんですか?実験をやめるのが彼女を救う一番の近道じゃないですか」
 「この実験はね、私の生きる理由なの。止める訳にはいかないのよ」
 操は毅然とした態度で答えた。
 「でもありがとう。あなたの申し出は凄く助かるわ。私もできる限りサポートするから。これからよろしくね」