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キラーマシンガール 後編

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 目を覚ますと、心地良いベッドと毛布に自分の体が包まれているのを感じた。僕の部屋だ。
 「あら」
 椅子に座った僕の様子に気づき操が手に持った本を閉じた。初めてこの部屋で目を覚ました時に見た光景と似ている。
 「おはようございます……」
 「時間はこんばんわだけどね」
 「僕、どれくらい寝てたんですか?」
 「丸二日に少し満たないくらいね。今は真夜中よ」
 「そんなに寝てたんですか……白雪は?」
 「無事よ。あなたが勝手なことをしてくれたお陰でね」
 呆れた表情で操は大きなため息をついた。
 「う……すいません」
 「……私達仕事仲間でしょ。信頼関係が生命線なのよ。これから先、もっと危険な状況に出くわすことって何度もあると思うわ。その時お互いを信用することができなかったら、本当に取り返しのつかないことになっちゃうわよ」
 「でも白雪を見捨てるわけにはいかなかったから……」
 「だからもっと私達のことを信用してって言ってんの。別に白雪を見捨てようなんてこと誰も思ってない。みんな、白雪を助けるために最善の行動を取ったのよ。そういうのは一人で全部できるようになってから言いなさい」
 「はい……すいません」
 「まぁ、その一方で。あなたの行動によって事態の深刻化を避けることができたっていう事実は、あるんだけどね」
 「……どういうことです?」
 「あなたはその体を使って白雪の暴走を阻もうとしたわけだけど。体のどこかが痛んだりするのを感じる?」
 「いえ、特に……ないですね。」
 あれだけ殴られたのにも関わらず、体の調子は良好なようだった。謎の男に引っこ抜かれた左腕には代わりにプラスチックのような素材で作られた義手がはめられていたし、強い痛みを発している部分も無かった。
 「暴走した状態の白雪にあれだけ殴られて、その程度の怪我で済むのは明らかにおかしいわ。あの子が無意識の内に力加減をしてたみたいね。れに加え、暴走の時間は全部で三十分弱。普段の半分以下だった。どちらも今までにない異例なことよ。自分を見失った状態でもあなただけは傷つけるわけにはいかないって思っていたのかしら。驚きだわ。私達はあの子が暴走から抗うことは絶対にできないと決め付けていたから」
 「白雪……」
 「結果的にあなたの行動がいい方向に転がってくれたわけね。指示を無視した身勝手な行動だったけど、あなたの気持ちっていうか、そういうのは伝わったわ。……とりあえず、お疲れ様」
 「……ありがとうございます」
 「さて、私はそろそろ仕事に戻るわ。しばらくは安静にしてるのよ。機械義肢を何の処置もなしに外すのって体に物凄く負担が掛かるんだから。それじゃね」
 操は静かに病室を出て行った。
 「とりあえず一件落着か……」
 天井の模様を見つめる。明かりのない部屋の中は真っ暗だった。時間は真夜中という話だが全く眠気はなくて、今から眠るというのは少し難しそうだった。なんとなく窓の外を見たくなって体を反転させると。
 「……こ、こんばんわっ」
 白雪が僕の隣に枕を並べて寝転んでいた。
 「うぉっ。いたのか」
 「はい、でもちょっと入りづらくて」
 額と額がくっついてしまう程の距離。自分の心臓が強く脈打ち出したのを感じた。
 「か、体はもう大丈夫?」
 「え、あ、はい。暴走の後はいつもパーツを傷つけてしまうんですけど今回はそれも無くて。唯史さんの方は?」
 「僕も平気だよ。左腕意外は目立った怪我は無し」
 「本当?……頭、若干でこぼこしてるけど……」
 白雪の指先が僕の頭に触れ、耳の後ろから頭のてっぺん辺りを往復する。頭の形がいびつなのは元からです。
 「ごめんなさい……本当は私が唯史さんを守らなくちゃいけないのに」
 「白雪は頑張ったじゃないか。あの変なスーツ男が邪魔してこなければ良かったんだけどね」
 「これだけはやっちゃいけなかったのに……ごめんなさい……」
 僕は自分の顔に添えられた手に自分の手を重ね、しっかりと握った。
 「どうして逃げなかったんですか……?私が暴走した時のこと、聞いてたんでしょ?」
 答えにくい質問だった。切羽詰まった状況で咄嗟に下した判断だったから言葉にするのは難しいけど、あの時の気持ちを一言にまとめるなら……そうだな。
 「白雪が一人になっちゃうって、そう思ったから……」
 「なに格好つけてるんですか……。本当は怖かったくせに。足なんてがくがく震えてましたよ」
 「どうして知ってる!?」
 「暴走中だって意識はちゃんとあるんですよ。コントロールができないってだけで」
 「じゃあ聞くなよ!」
 「えへへ。なんて思ってたのかちゃんと唯史さんの口から聞きたいなって思って」
 「凄く恥ずかしいことを言ってしまった……」
 体を転がして、白雪に背を向けた。
 「唯史さん」
 白雪が体を寄せ、僕の耳元でささやく。背中に柔らかい感触と心地よい暖かさ。
 「私、ずっと一人で生きていくんだって思ってました。物心ついたからこんな生活で、そういう人生って決まってるものなんだって思ってた」
 一瞬の沈黙。白雪の体がこわばるのを感じる。
 「唯史さん……唯史さん。好き。私、唯史さんが大好きです。恋愛なんてお話の中でしか見たことないけど、多分今の私のこの気持ちがそうだと思うんです。私にとって唯史さんは必要なんです」
 「白雪……」
 僕は体の方向を戻し、再び白雪と向き合った。彼女は僕の目をまっすぐと見つめていた。唇を震わせ浅い呼吸を繰り返す彼女は普通の女の子の顔をしていた。殺し屋なんかじゃない、壊れたおもちゃなんかじゃない、ただの女の子だった。そして僕は、自分の気持ちを白雪に告げた。
 「白雪。僕も白雪のことが好きだよ」
 色々と異常な状況だったから色々と遠まわりをしてしまったけど、口に出してしまうとそれはとても簡単なことだった。僕の白雪に対する思いや行動の所以は紛れも無く、彼女への愛情だったのだ。
 「ほんと……?ほんとに?ずっと傍にいてくれる?」
 「いるよ。傍にいたい。それで、傍にいられるように強くなりたい」
 「そんなこと。そばにいてくれるだけで私は……。ああ、今日は最高の日ですね」
 白雪は噛み締めるようにそう言って僕の胸に顔を押しつけた。
 「あったかい……」
 僕は白雪の声の調子がおかしいことに気づいた。上ずって震えているし、息も荒い。
 「白雪……?泣いてるの?」
 「ふふ。嬉しい時にも涙って出るものなんですね。発見です」
 「これからたくさんあるよ。嬉しいこと……」
 密着する体を通して白雪の心音が伝わってくる。満たされた気分だ。今ならなんでも出来るような気がした。