キラーマシンガール 後編
唯史達が寝泊りしているアジトの最も下の階の最も奥。幾つものコンピュータが並べられ、白雪の体調や感情を常に監視している部屋がある。そこに操と融の姿があった。
「ようやく結ばれたわね。これで色々と動き易くなるわ」
ほっと安心したように息を吐く操。その隣で融は難しそうな顔をしてモニターを見つめている。
「どうしたのよ。何か問題でも見つかった?」
「……操のやり方に口を出すつもりはないが、俺にはこのやり方が一番危ないように思えてならないよ」
「どうして?」
「不安定だからさ。唯史と白雪の関係、ただそれ一つに全てを賭けてる。もしもの場合の保険もないしな」
「正論ね。でもそれでいいの。ある程度時間を稼ぐことができれば。あと半年もくらいで研究はひと段落するから」
「そうしたら白雪は不要になるのか」
「研究対象としての価値はほぼゼロになるわね。処分するかどうかは……これからの二人を見ながら考えていくことにするかな」
掌で口を押さえて大きなあくびをする操。彼女はもう何日も寝ていない。唯史がいつ目覚めてもいいように、と空いた時間ができる度に彼の部屋に足を運んでいたからだ。
「そろそろ休んだ方がいいんじゃないか。お前最近働きすぎだぞ」
「体の丈夫さだけには自信があるからね。とは言え、少しばかり疲れたわ……。充電しないと持ちそうにないかも」
「しばらく休めよ。何かあったら起こしに行くから」
「うん。そうしようかな。はー。優秀な部下があと二、三人くらいいてくれれば楽になるんだけどな」
「またその辺に転がってる奴を口車に乗せて連れてくればいいじゃないか」
「そういうわけにもいかないのよ。研究も山場に差し掛かって、部下に任せられる部分がだんだん減ってきてるのよね」
「山場……もうすぐ終わるんだな。この研究も」
「白雪がここに来てもう十年経つもんね。ここまで長かったわ。……融、唯史の監視は念入りにお願いね。白雪への影響力を考えると、彼が一番危険だから」
「……ヒーローだもんな。あいつは」
「ヒーロー?何それ?」
「ん、いや何でもない。まぁ、ああやってままごとに夢中になってくれてる間は扱いが楽で助かるんだけどな」
「ままごとでも侮っていられないわ。あの子達には力があるからね。駆け落ちとか変なこと考えて行動に移し出す前に周りを固めておかないと」
「白雪があの力を自在に操ることができるようになったら脅威だな」
「ああ、あれには私も驚いたわ。まさか暴走状態での力加減をやってのけるなんてね。今までの研究をバカにされた気分よ」
「今まで復調の兆しなんて欠片も見せなかったのにな」
「……全部。全部唯史のためよ。暴走したのもそれを制御したのも。あれだけ一人を愛するのって普通できないわよね」
「何かにすがらないと生きていけないのはみんな一緒だろ。白雪の場合はそれが唯史だったってだけだ」
「バカね。他人にすがって生きることを覚えた者に幸せが訪れることなんてありえないっていうのに」
「誰かの受け売りか?」
「私の個人的な見解よ」
「幸不幸の尺度はそいつ本人が決めるものだろ。俺の個人的な見解だけどな。少なくとも今あの子は、今最高に幸せだって感じてる。だからそれでいいんだよ」
「……それもそうね。それじゃ私は私の幸せのために、研究に励むことにするわ」
キラーマシンガールその2へ続く
作品名:キラーマシンガール 後編 作家名:くろかわ