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キラーマシン・ガール 前編

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 目が覚めると僕は真っ白な部屋の中にいた。窓の外に見える空は茜色に染まっている。見覚えのない場所。でも何故か懐かしさを感じる。
 どうやら僕は助かったらしい。それどころか大した怪我もしていないようだ。
あれだけの事故に遭ったのにも関わらず、僕の体で痛みを発している箇所は一つもなかった。
 そしてその時、僕はあることに気づいた。
 体が動かすことができかったのだ。顔の筋肉と手足の指先と首はなんとか動かすことが出来たが、その動きは普段とは比べ物にならない程の緩慢さで、その他の部分に至ってはビクともしなかった。
 事故の後遺症か何かだろうか。それとも薬の作用なのか。なんにしても医者の説明を待つ以外にないようだ。
 それにしても静かな場所だ。ここが病院ならドアの外は廊下に繋がっていて他の病人や看護婦達が行き来しているはずだが、その気配はない。無機質で奇妙な静けさ。僕はその中で呆然と真っ赤な空を見つめていた。
 「おはよう」
 しばらくすると突然部屋の扉が開き、白衣を着た女性が現れた。長身で均整のとれた体つき、腰までまっすぐに伸びた長い黒髪が特徴的だ。
 「お……おはようございます」
 ゆっくりとした小さい声だったがなんとか喋ることはできた。女はベッドの脇に二つ並んで置かれている椅子の片方に腰を下ろした。
 「どうしてここにいるか、わかる?ここまでのこと思い出せる?」
 「学校の帰り道……電車に乗ってて、そしたら何かが爆発して……横転して」
 「そう。車内に持ち込まれた爆弾が爆発したらしいわ。メディアでは過激なテロ集団によるものだと報道されてる。今日は九月十四日の十七時半。事故から三日が経過してるわ。あなたはここで治療を受けたの。しばらくはここで入院してもらうことになるわ。私の名前は八王子操。あなたの主治医よ。これからよろしくね」
 「よろしくお願いします……」
 「素性がわからなかったから、勝手だけど持ち物を調べさせてもらったわ」
 操はポケットから小さなメモ用紙を取り出して広げた。
 「四宮唯史、十七歳、高校生。合ってるわね」
 「はい」
 その後、操は僕の個人情報を読み上げていき確認する作業を始めた。
 通っている高校や家族構成など、そのどれにも間違いはなく、僕は操の質問に対して頷き、また質問をされては頷き、というやり取りを繰り返した。それが終わると彼女は紙をポケットに収めて話を再開した。
 「ふむ。問題なし。それじゃ、次はあなたの体の話をさせてもらうわ。まず治療内容についてだけど、君の左腕とね」
 その時、病室の扉がガラガラッと勢いよく開かれ僕と操の会話を遮った。扉を開けたのはセーラー服姿の小柄な少女だった。どこにでもいる女子高生といった容姿で、良く言えば素朴な、悪く言えば無個性な見た目をしていた。
 「どうしたの。そんなにあわてて」
 「目が、覚めたって、聞いたから……」
 操が聞くと彼女は荒い息遣いで肩を上下させながら僕達の方に近寄り、操の隣の椅子に腰を下ろした。
 「彼女のことは覚えてる?」
 操さんは彼女を指して言った。
 「……いえ」
 なんとなく見覚えがあるような気もするが……。
 「この子ね。事件の時、あなたの隣に座っていたの。電車が横転したとき、あなたの体がこの子に覆い被さるような状態になって、この子の身を守ったそうよ。お陰でこの子はちょっとした擦り傷を負っただけですんだの。その後、彼女の紹介であなたの治療を行ったってわけ」
 女の子は申し訳なさそうな表情で頭を下げた。
 「そこで、あなたの体についての話に戻るんだけど。あなた、目が覚めてから自分の体に何か違和感とか感じてる?」
 「とりあえず、体が重いです。ビクともしなくて……」
 「そっちの方は気にしなくても大丈夫。明日になれば問題なく動かせるようになると思うわ。……ふむ。てことは触覚の再現度は本物と遜色ないレベルに達してるのね」
 おもむろに操が掛け布団をめくり上げた。
 「……どうしたんですか?」
 どうやら眠っている間に服を着替えさせられていたらしい。病院でよく見かける薄いブルーのガウンを着せられていた。操はガウンの袖をまくる。
 「ここ、見て」
 操は僕の手を持ち上げ、手首の少し下辺りを指差した。細い線で長方形が描かれている。
 「なんですか、これ」
 「触ってみて。って今は動けないんだっけ。いい?よく見てて」
 操が人差し指で長方形の隅を軽く二回押した。手首が小さな電子音を発して、長方形の部分の肌がゆっくりと浮き上がった。操がその部分を掴んで引っ張ると、その部分がプラモデルのパーツのように簡単に外れる。中を覗くと様々な太さの様々な色のコードが何本も通っていた。にわかには信じがたい光景だ。
 「なんなんですか、これ……僕の腕が」
 「機械義肢っていうの。事故で使えなくなったあなたの左腕と左足の代わりにこれを移植したのよ」
 「……使えなくなった?」
 「横転した後も何度か爆発があってね、その時車体の残骸に下敷きになりかけたこの子をあなたが助けたんだけど。その時に左の肩から先と膝から下が潰れちゃったのよ」
 「これ、僕の腕じゃないんですか……?」
 僕は操の持ち上げた自分の手のひらをまじまじと見つめる。
 「……ここ、どこなんですか?僕、これからどうなるんですか……?」
 機械の手足を移植するなんて普通の病院にできることじゃない。不安が募る。
 「ここは機械義肢の研究をしている非公式の医療組織よ。普通の病院には行けないようなならず者の治療をしたりしてお金を儲けてる。と言ってもあなたの扱いは普通のけが人と大して差はないわ。怪我が治るまで待って、リハビリをして体を自由に動かせるようにする。不安がることはないわ」
 「あの……お金はどうすればいいんでしょう。家族にも連絡したいし」
 操はと腕を組んで軽くため息をついて「うーむ」と唸った。
 「私達、出来る限り外部に情報は漏らしたくないの。まだあなたのことよく知らないから信用することはできないし。だから外部との連絡は当分はNG。勝手だけどそう決めさせてもらうわ。まぁ、今はしっかり休むことに集中しなさい」
 「え……」
 「操、そろそろ」
 病室の扉の方から低い男の声が聞こえた。スーツ姿の男が入り口横の壁に腕を組んで寄りかかっていた。
 操がその男に向かって頷き、セーラー服の少女と同時に立ち上がった。
 「それじゃ、私は仕事に戻るわ。詳しい話はまた今度。看護婦を寄こすから、身の回りの世話はその人に任せて。もし周りに誰も居ない時に何か問題が起こったらそこのボタン押して。それじゃまた」
 それだけ言うと操は足早に病室から出て行ってしまった。セーラー服の女の子もそれに続いて立ち上がり、僕に向かって小さくお辞儀して去っていった。
 ここ数年で一部地域の治安が急激に悪化していっているという話が雑誌などでよく取り上げられている。暗殺や人身売買、過激な新興宗教にテロリスト集団。弱い者達の権利が不当に踏みにじられ、力を手にした無法者たちがのさばる世界。僕はそんな場所にやってきてしまったのかもしれない。