アンドロイドの恋人
玄関で扉を開けた状態のまま、ひたすらワゴン車を見つめつづけた。
このまま彼女と別れることになったら、どうしよう。もうA001の笑顔を見ることもできなければ、あの柔らかい肌に触れることもできないかもしれない。
それが、凄く嫌だった。またこの大きな家に一人だけで過ごさなければいけないのだろうか。
学校を卒業した時に両親が他界した僕にとって、都会の一軒家はただの孤独な場所だった。
もともと友達もいなかったので、家族がいなくなって初めて本当の孤独を実感した。たった一人で布団の中につく毎晩は恐怖の連続で、もしかしたら自分はこれから一生独り身のまま生きることになるのだろうかと考えると目が冴えて眠れなくり、無性に涙が出てくる。
気づけば、玄関でも泣いていた。たった一晩でも彼女と過ごせた時間は今までにない幸福感があった。
嫌だ。独りが嫌だ。もっと彼女といたい。
ワゴン車の扉が開いた。見上げると、栗色の長い髪が風に揺られている。
もしかしたら彼女には重力がないのかもしれない。足音なくアスファルトの路上に飛び降りた彼女は僕を見て、あの言葉を発する。
「ただいま、ご主人様」
僕は玄関から飛び出し、彼女を抱きしめた。
彼女もそっと僕を抱きしめてくれた。
それからはずっと彼女と一緒だった。眠るときも食事をとるときも、本社の役員にお願いして職場につれていく許可ももらった。
とにかく、彼女と離れたくなかった。
そんな僕をA001は愛してくれていた。一辺の曇りもない笑顔で彼女は僕に話しかける。
「愛してます、ご主人様。A001は一生、ご主人様のお側にいます」