アンドロイドの恋人
翌日。僕と彼女は一緒に出かけた。
「今日はいい天気ですね、ご主人様」
「う、うん。そうだね」
僕の方が緊張してどうする。そういえば女の子と出かけるなんてこれが初めての経験かもしれない。
繁華街を二人で並んで歩いていると、いきなり彼女は僕の手を握りしめてきた。ひんやりとした手とは裏腹に、肩に触れた胸元は暖かくて、いい匂いがした。
「ご主人様、今日はどこに行くのですか?」
「う、ええと、その、今日は君の服を買いに……」
「え、本当ですか?私のために……嬉しい。ご主人様、大好きです」
A001は心底から嬉しそうな表情をする。目は大きく開き、声を聞いているだけで僕は全身が痺れそうな感覚になる。
冷静になれって。なに考えているだ、僕は。
彼女の甘い香りが僕を誘う。街中をはしゃぐ彼女は今まで出会った誰よりも輝いて見えた。
「ご主人様、あれ可愛いですね」
「ご主人様、お疲れですか?」
「ご主人様、ほっぺたにソースがついてますよ」
「ご主人様、今のちょっとカワイイです」
「ご主人様、今日は本当に楽しかったです」
「ご主人様、私、そろそろ………うご、け、なく、な……」
「え?」
それは自宅につく手前のことだった。今まではしゃいでいた彼女の口調が突然スローモーションになり、動かなくなった。
「A001?」
やがて眼蓋は閉じ、完全に停止してしまった。
目の前が真っ暗になった。何が起きたのかわからず、僕は至急本社に連絡した。
本社からテクニカルサポートのスタッフがすぐにやってきた。ブルーの作業服を着用した彼らはワゴン車を自宅の前に停止させ、A001をそこに連れ込んだ。
僕もその中に入ろうとしたけれど、断られた。
「ここからは機密情報になります。外で待機してください」
あきらかに技術屋とは違う、屈強な体格をした男が僕の前に立ちはだかった。
僕はただ見守ることしかできなかった。