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@manami_hijikata

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【喜佐】





ブー ブー ブー ブー ブー ブー ブ……



冷え切った手を暖めるように震えた携帯は、決められた時間の後に沈黙した。



カチ カチ カチ



細い指が慣れた動作でボタンを押していく。画面にはメールの着信画面。

サブジェクトにはこうあった。



『カイ (@sea_on_the_sand) があなたのツイートに返信しました!‏』







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        ザザン                                   ザザン
                                     ザザン
                   ザザン
      ザザン
                                        ザザン
                            ザザン
 ザザン
                  ザザン
                                  ザザン
                ザザン
      ザザン                                  ザザン





満潮を越えた海は海岸線を遠くへ遠くへ。

一歩、足を踏み出してみた。

ザ。と、土は湿った音を吐き出した。

また一歩。一歩。一歩。

――このままずっと潮が引き続けたら、いつか立川のところへ行けるのかな。

一歩。一歩。パシャン。

――そんなはずないよね。

例え海を越えることができたとしても、そこに立川がいるはずがなかった。

パシャン。パシャン。パシャン。

押しては返す波が足元を濡らしていく。

パシャン。パシャン。ザ。

「真波」

聞き慣れた声。振り返ると見慣れた顔。

「海くん」

「こっち来い。風邪ひくぞ」

「うん」

一歩。一歩。一歩。

簡単にたどり着く。

「海くん」

「なんだ?」

月明かりに照らされた顔は、

「あのね」

「うん」

顔は、

「………………くしゅんっ」

「大丈夫か?」

すっと抱きしめられる。汗の匂いがした。

「もっと強くして」

「ああ」

やなことを忘れられるように。

――忘れていいはずない。

やな自分を忘れられるように。

――忘れられるはずない。

やな世界を忘れられるように。

「ごめんなさい」

私に優しく微笑む顔を見る。

「私、やなやつだ」

「真波?」

「ほんと、やなやつ」

吐き捨てた言葉は心の隙間にすとんと落ちた、間隙なく。

「…………………………」

海くんの腕は容易くほどけた。

ザ。ザ。ザ。

「立川」

ピン、と空間が引き締まる。



「……………………………………………………死んじゃった」



「…………………………」

「…………………………」

「…………………………」

「…………………………」

「………………………………………………そうか」

「………………うん」

「辛かったな」

「…………うん」

「……………………」

「海くんも…………」

「ああ」

「泣いていいんだよ?」

「お前が代わりに泣いてくれたから。いい」

「だめだよ」



「私の涙じゃ……」

「そんなことはない」

「ううん。だめ。私の涙を立川は許してくれないから」

「…………なんでだ?」

「………………………………言えない」

「俺が頼んでもか?」

「海くんには言えないよ……」





        ザザン                                   ザザン
                                     ザザン
                   ザザン
      ザザン
                                        ザザン
                            ザザン
 ザザン
                  ザザン
                                  ザザン
                ザザン
      ザザン                                  ザザン






海岸線は遠くへ遠くへ。

海が小さくなっていく。

――こんな世界なんて、忘れてしまえればいいのに。

「海くん」

「なんだ?」

私の全てを受け止めてくれる人を見て、言った。



「立川を幸せにしてあげて」



私を幸せにしてくれる人に言う。



「私にはその資格がないから」






















「断る」

距離が零になる。

「お前がお前をどう思おうと、俺の想いは変わらない」

でも、心は逃げたまま。

「私が」

海くんの心を遠ざけるために。

「私が嬉しかったって言っても?」

海くんの想いを傷つけるために。

「私が、立川が死んで嬉しかったって言っても?」

心が遠ざかる。距離も遠ざかる。

「何を……言って…………」

「私は、立川が死んで、嬉しかった」

やな私を叩きつけた。

「これで、海くんの想いは、私だけに向かうって、思った」

一つずつ一つずつ、やな私をさらけ出していく。

「私の涙は、嬉し涙」

「だから、立川は許してくれない」

「だから、海くんの想いを、私は受け取っちゃだめ」


海くんを好きになっちゃだめ。


海くんと家族になりないって思っちゃだめ。


土方真波なんて、名乗ろうと思っちゃだめ。


私は喜佐真波で、それ以外になろうとしちゃだめ。


「そうしないと、立川は許してくれない」

「そんなことはない」

いつもの、海くんのいつもの返答のタイミング。すぐに答えを返してくれる。

「立川は許すさ」

「そんなはずない」

私はやなやつだ。

「立川は最初からこうするつもりだった」

「嘘だよ……」

海くんが受け止めてくれるとわかってて言った私は、ほんと……やなやつだ。

「つってもな」

「海くんがなにを言っても」

「俺、振られてるんだよな」
「だ、め……………………え?」

海くんがなにを言ってるのか理解できない。

「俺、立川に振られてるんだが」

「嘘…………だよ」

「そんなことないぞ」

立川が海くんを振るはずが…………

「だから、立川は最初からこうするつもりだったんだって」

……………………死んで…………諦めるつもりだった?

「それって…………」

それって、

「ばかじゃないの……」

「……かもな」

私が一歩踏み出せるように?

こんな……こんな…………

「私の……ために…………?」

「ああ」

ばか…………ほんと、ばか………………

「…………ばかだね」

「みんな、な」

私も。海くんも。立川も。

「ばか、ばっか」



End.



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作品名:@manami_hijikata 作家名:ぶちょー