小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

白い手

INDEX|2ページ/2ページ|

前のページ
 


オレは急に湧いて来たその思いを打ち消すように、外の景色を見た。日が暮れかかりマジェンダ色の空と雲が禍々しい思いを感じさせる。どしたんだろうオレは、たしかに仕事で疲れてはいたが、最初に見た白い手はロマンチックとさえ思えたのに。オレはまた白い手に視線を戻した。

乗客はいくぶん減ってきている。白い手の下方に白い衣服、ワンピースが少し見えた。位置から見て白い手の本人なのだろう。これで白い手のみがつり革に掴まっているという妄想が解けた。見ているうちに次の駅が近くなってスピードが落ち、やがて電車が停まった。白い手がつり革から離れ白い衣服と共に動き出している。オレの降車駅ではなかったが、つられるように電車を降りた。

電車が去ったホームから乗客が流れる水のように改札に向かう。その流れに乗らずにたたずむ白いワンピースの女性。あの白い手の人物だった。私もまた、少しだけ離れてその女性を見ていた。やがて女性は歩き出した。足が見えないので、ホームの線路際を白い姿がすーっと移動しているように見える。その白い姿がふっと消えた。白い残像は線路に落ちたあるいは飛び降りたように見えた。

オレはすぐに近寄って、線路内を見下ろした。白い姿がうずくまっているのが見えた。顔は見えない。そして、立ち上がることが出来ないのだろうか、あの白い手が助けを求めるようにこちらに伸びている。オレはその手を掴もうと手を伸ばした。しかし、届いている筈の白い手が掴めない。電車の警笛が聞こえる。さらに身を乗り出して白い手を掴もうとした時に、オレは後ろから強い力で引き倒された。

電車の警笛と通過音。この駅には停車しない急行が、何事も起こらぬまま通り過ぎていった。オレは見知らぬ誰かが、叱声と安堵の声で何かを言っているのを聞きながら、助けを求めるように伸びていた白い手を思い出し、「白い手が」と呟いた。





作品名:白い手 作家名:伊達梁川