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七ケ島 鏡一
七ケ島 鏡一
novelistID. 44756
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グランボルカ戦記 1 紅と蒼の姫

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 アンドラーシュにつかまったオリガと別れて、ソフィアは一人でジゼルの部屋へと向かっていた。
 しかしその歩みは、彼女の身長から推測される歩幅を考えると、驚くほど遅い。
 理由は見ていればすぐに分かる。とにかく何もないところで転ぶのだ。別に歩くのが苦手というわけではない。長いスカートが彼女の歩みの邪魔をしているのだ。先ほど、アリスに咎められた失態も、大部分がこのスカートのせいだと言っても過言ではない。
「うわっ」
 ソフィアがまたスカートの裾を踏んで倒れそうになったところを、ソフィアよりも大分小柄な金髪の男性が支えて助け起こした。
「ったく、何やっているんだお前は。」
「レオくぅん。」
「レオくぅん・・・じゃ、ねえよ。なんでお前はそうやってドジばっかりなんだよ。」
 レオと呼ばれた男性はソフィアの手を握って起こしてやると、ソフィアのエプロンドレスに付いた埃をポンポンと叩き落とした。
「ありがとうレオ君。いつ戻ったの?」
「侯爵さんと一緒に、ついさっきな。」
 ソフィアの幼馴染である彼の仕事は偵察兵。今回もアンドラーシュが安全に旅をできるよう本隊から先行して様子を探るため、旅に同行していたのだ。 
「で、お前は一体こんなところで何をしてるんだ?」
「えっとね、アリスちゃんが、別のメイドが良いって言うから、ジゼルちゃんに伝えに行くところなんだけど。」
「ちょっと待ってくれ。・・・アリスちゃんって誰だ?」
 説明を端折ったソフィアの言葉を遮って、レオが訊ねる。
「個人的にはそのアリスって名前は、ちょっとトラウマのある名前なんだけど。」
「オリガちゃんと一緒にリュリュ皇女を守ってここまで来てくれた人。旅芸人なんだって。」
「ふうん・・・旅芸人ねえ。旅芸人にしちゃ、メイドを代えてくれなんて図々しいことよく・・・ああ、でもお前が付いていたんじゃ、どんな聖人君子でも変えてくれっていうか。落ち着かないもんな。」 
「酷いよレオ君。そんなことないもん。このスカートがなきゃ転んで部屋の物壊すこともないもん!だからわたし、『スカート脱いでいいですか?』って聞いたんだよ。そしたらアリスちゃんったら、『何でそうなるの!』とか、怒りだしちゃって。」
「そりゃあ怒り出すだろ。いきなり部屋で下着になるメイドなんて嫌だぞ。」
「し、下だけだよ。これツーピースだし、エプロンしているし。」
「いや、まあ。そういうのが好きな下世話な中年オヤジとかは居そうだけどな。そのアリスさんは残念ながらそうじゃなかったんだろ。」
「それで気に入られても嫌なんだけどね。ねえ、レオ君。もし暇だったらジゼルちゃんの部屋まで手を引いてくれないかな。あとでもう少し裾の短いのに着替えるからさ。」
 そう言ってあはは、と照れ隠しのような笑いを浮かべるソフィアを見て、レオは、一つため息をつきながら、ソフィアの前に右手を差し出した。
「・・・ったく、ジゼルの部屋まで連れていくだけだぞ。自分の部屋には一人で戻れよ。」
「ええっ。レオ君冷たい。」
「俺、ジゼルのことちょっと苦手なんだって前から言っているだろ。それに俺は帰ったばっかりで疲れてんだよ。少し寝かせてくれ。」
「あ、じゃあ一緒に寝る?」
「寝ねえよ。」
「ちぇ、残念。でも何でレオくんはジゼルちゃんのこと苦手なの?結構優しいと思うんだけど。」
「俺には厳しいんだって。・・・ところでソフィア。お前の言っているアリスって、もしかしてこんな感じの髪をした胸のでかい女の人か?ソフィアと同じ歳の。」
アンドラーシュ同様、レオもアリスの特徴を捉えたジェスチャーをしてみせたことに、ソフィアが驚きの表情を浮かべる。
「そうだけど・・・なんでレオ君がアリスちゃんの事を知っているの?アンドラーシュ様も知っていたし、有名な人なの?」
「ん?・・・ああ、昔ちょっとな。そっか、なるほどなあ。それなら合点がいくか。」
「何がなるほどなの?アリスちゃんとレオくんってどういう関係なの?」
レオの口から出たアリスの名前を聞いてみるみるうちにソフィアの表情が不機嫌そうなそれに変わった。そんな彼女を見てレオは苦笑を浮かべる。
「別にお前が考えているような関係じゃねえよ。ま、とりあえずジゼルのとこに行こうぜ。俺とアリスさんの話は歩きながらするからさ。」
ソフィアの手を引いてジゼルの部屋へ向かって歩き出そうとした時、レオは正面から歩いてくるエドの姿を見つけて声をかけた。
「おーい、エド。」
「あ、レオ。帰って来たんだ。お帰り。」
「ああ、ただいま。なあエド、お前この後暇か?」
「あとは庭掃除くらいで、暇だけど、デートの誘いとかならソフィアの居る所じゃちょっと・・・。」
「いやいや、何で俺がお前をデートに誘うんだよ。」
「ちょっと言ってみただけじゃない。で、何?」
「ソフィアがドジ踏んで、いや踏んだのはスカートだけど。とにかくアリスさんを怒らせちゃったらしいんだよ。それで、悪いんだけどジゼルかメイド長に言って別のメイドを行かせてくれないか。」
「ああ、なるほどね。わかった。」
 エドがあっさりと納得したところを見るに、おそらく以前にも同じようなことがあったのだろう。
ソフィアは本当に申し訳なさそうな表情でエドに謝る。
「もう少し裾の短いスカートだったらあんなにひどいことにはならなかったと思うんだけど、昨日洗った洗濯物が乾かなくて。替えのスカートは丈詰めできてなくてこんな感じだし。」
 そう言って、自分がスカートの裾を踏んでいるのに気づかず、持ち上げて見せようとしたソフィアは、再び体勢を崩してレオに支えられた。
「お前、本当に気をつけろって。」
「ああ・・・何だか部屋の惨状が目に浮かぶようだね。じゃあ、アリスさんの所にはわたしが行くからソフィアはスカートを取り替えてきなよ。もう昼過ぎだし、さすがに乾いているだろうから。着替えたら、本当は私のやるはずだった裏庭の掃除をお願いね。」
「本当にごめんねエド。」
「いいって。そのかわり今度城下街でケーキおごりね。いい?」
「うん。そのくらいで済むならホールだって構わないよ。」