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七ケ島 鏡一
七ケ島 鏡一
novelistID. 44756
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グランボルカ戦記 1 紅と蒼の姫

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2 脅迫状

 届いたばかりの親書を読み終えた騎士団長ヴィクトル、傭兵隊長ヘクトールは腕を組んでうつむいたまま動かない。他の文官達も周りの者と話をしているものの、全体に向けての発言はしていない。
アンドラーシュも手紙の入っていた封筒を弄ぶばかりで、何も発言する気配がない。
そんな中重い空気の中、入り口近くに座らされたままのオリガは親書の中身も知らされず、不安そうな表情を浮かべて、そわそわと落ち着かない様子でいた。
「遅れて申し訳ありません。」
 そう言ってジゼルがエドを伴って会議室に入ってきたのは会議開始から十分後の事だった。
 すぐにジゼルにアミサガンからの親書が渡され、中身を読んだジゼルは親書をやぶかんばかりの力で握りつぶしながら叫んだ。
「こんな親書に見せかけた脅迫、飲む必要ありませんわ。」
 握り潰した親書を机に叩きつけながらジゼルが叫ぶ。
「もちろんそれをそのまま飲む気なんかないわ。」
 親書と言う名目で使者が持ってきた手紙には、リュリュからアミサガンの街。ひいてはリュリュの領地の実権を奪い取ったフィオリッロ男爵の名で、アンドラーシュが拐ったリュリュ皇女の返還と、十年前から行方不明になっている旧リシエール王国王女、エーデルガルド・プリタ・リシエールの捜索のためにアミサガン軍の駐留を認めるように。要求を飲まない場合には、武力をもって解決する。と書かれていた。要するに、リュリュを返す共に、アミサガンの軍でアンドラーシュの領土を侵攻させろ。拒否をするなら、戦争をはじめる。ということだった。
 親書に記載されている返答期限は2週間となっている。
「微妙に・・・嫌な時期に仕掛けてきたわね。バルタザールは。」
「絶妙。が正しいでしょうな。半月後、侯爵がアレクシス皇子との会談を控えているこの時期。ここで叩かなければこちらに先手を取られる。そう考えてのことでしょう。もしかしたら、アミサガンの反乱自体が、この事を見越してのことであった可能性もあります。」
 ヴィクトルの発言に、ヘクトールとジゼルも頷く。
「そうね。・・・ジゼル。お願いしていた地下の空洞を使っての領民の避難施設の進行具合はどうかしら。」
「現状で8割といったところです。この城下の領民は収容可能ですが、領内すべてとなると少々厳しいものがあります。食料の備蓄状況などはこちらの資料を御覧ください。」
 そう言ってジゼルはエドに合図をして出席者に資料を配らせ、出席者はしばらくその資料を熟読した。
全員がある程度資料を読み進めたのを確認したアンドラーシュがジゼルの方を向いて口を開く。
「ま、とりあえずは必要充分といったところね。向こうも別に国力を減らしたいわけじゃないでしょうからこの街以外には手をださないでしょうし、一旦他の街が取られるのを覚悟で領内の兵力をすべてこの街に集めて、上手いこと撃退ができれば少しは時間が稼げるでしょうけど、どちらにしてもこの要求を蹴る以上は、アミサガンはもちろん、皇帝バルタザールをもはっきりと敵にまわすことになるわ。そうなると、うまく今回の戦いを乗り切ったとしても、かなりの長期戦を覚悟しなきゃいけないわね。ヘクトール、傭兵部隊の練兵はどんな感じかしら。」
「必要最低限の戦術は叩き込んだが、部隊としての実戦経験が皆無だからな。どこまで戦えるかは、ぶっつけ本番になる。」
 アンドラーシュとは二十年来の友人でもあるヘクトールが渋い顔でそう答えた。
「そう・・・騎士団の方は?」
「こちらも実戦経験の浅い若い騎士が多いですからな。傭兵部隊と同じように、ぶっつけ本番の感は否めません。」
「さっきジゼルにもらった資料で、物資的には籠城なら5ヶ月はいけるってことは解ったけど、問題は兵力的にはそれだけ持たせることも難しいって話なのよね。」
 親書を読んでいないオリガは、4人が何の話をしているのか理解できず、そわそわとすることしかできない。
「オリガ。」
「はっ!」
 アンドラーシュから水を向けられて、その場で立ち上がったオリガは直立不動で敬礼をしながら返事をした。
「昔からそうだったけど、アミサガンは今も豊かな街って話よね。実際の所、貴女から見てどうだった?」
「人口も多く、港町らしく商業が盛んで、話に聞く以上に華やかで豊かな街でした。しかしながら、その豊かさはリュリュ様の善政による所が大きいと思われます。」
 焦りながらもなんとかそう答えたオリガが、ホッと胸をなでおろそうとした時、ヴィクトルから次の質問が投げかけられた。
「練兵はいかがなものか。あとは、数だな。分かる範囲で教えてくれ。」
「兵の練度としては・・・正直申し上げて、こちらに分があると思います。私が御前試合で準優勝できるくらいですので。ただ、アミサガンは人口が多く、そのため正規兵はもちろん、志願兵も中々の数がおりました。ですので、乱戦になれば厳しいと思われます。」
「質ではこちら、数ではあちらということか。」
 そう言うと、ヴィクトルは何やら思案顔で再び押し黙ってしまった。
「どちらにしても。条件を受け入れるわけにいかない以上、この街での籠城という事になるでしょうな。」
「そうですね。ただ、包囲されてしまえば、こちらが圧倒的に不利。出来れば包囲されないようにしたい所ですが・・・」
 ヴィクトルとヘクトールの発言に頷きながらアンドラーシュが続ける。
「それに万が一にもリュリュをあちらに渡すわけにはいかないわ。そんなことになるくらいなら、あたしがあの子を殺す。」
「お父様・・・。」
「万が一の話よ。そんな顔しないで、ジゼル。・・・そうね。その万が一を防ぐために、リュリュにはもう一度旅をしてもらいましょうか。あの子の大好きなお兄様のところへね。」
 アンドラーシュの話を聞いて、ヴィクトルが深く頷いた。
「そうですな。それが良いでしょう。アレクシス領へ入ってしまえば、万が一ここを抜かれたとしても、補給線の長くなるアミサガン軍はそうそう手を出せなくなるでしょうからな。」
「もちろんここをむざむざ渡すつもりもないから、リュリュには親書を持って行ってもらって、アレクシスへの援軍の要請役をお願いするわ。」
「包囲された所をアレクシス軍で外側から、我々で内側から挟撃するということか。なるほど、やりがいのありそうな作戦だ。」
 そう言ってヘクトールが不敵に笑う。
「そういう形ができるまで、持ちこたえるのが前提だけどね。二週間という期限を切っている以上、向こうは二週間たったらすぐに戦闘に入れるようにするつもりでしょうから・・・アレクシスのいるグランパレスまで一週間。往復で二週間。聡いアレクシスのことだから準備にそんなに時間はかからないでしょうけど、アレクシスの準備ができるまでの期間を考えると、一週間くらいは持ちこたえないといけないわね。・・・ジゼル、あんた何人か見繕ってリュリュを連れてアレクシスのところへ行って頂戴。」
「お断りします。」
 即答するジゼルに、室内の文官達がざわついた。