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七ケ島 鏡一
七ケ島 鏡一
novelistID. 44756
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グランボルカ戦記 1 紅と蒼の姫

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 ジゼルと合流できたおかげで、リュリュ達はその日の宿をキャンセルして、城へと入城することができた。
 リュリュの叔父のアンドラーシュは不在だったが、急な来城にもかかわらずジゼルはリュリュたちに出来る限りのもてなしをしてくれた。そして予めリュリュの身の回りに起こりそうな事情についてアンドラーシュから聞いていたジゼルは改めて協力を約束してくれたのだった。
 そして次の日のこと。アンドラーシュが戻るまではアミサガンへの出兵はできないため、リュリュは暇を潰そうと城の図書館へとやってきていた。
 この図書館は、帝国随一の蔵書量をほこり、帝国の頭脳とまで呼ばれる施設だ。しばらく出兵できないのであれば時間はあるし、いい機会だから、らここで本を読めるだけ読んでやろう。そう思ってのことだ。
この規模の施設なら、さぞかしたくさんの人間が働いているのだろう。リュリュは図書館の外観を見たときにそう思った。
 しかし、いざ中に入ってみると、図書館の中に居たのはたった一人の黒髪でメガネをかけた、おそらくはジゼルやエドよりも年下の男性司書だけだった。
 入ってきたリュリュに一瞥をくれただけで、本に視線をもどした司書に、リュリュは読みたい本をリクエストすることにした。
「ちと、訪ねるが。」
「・・・・・・。」
「おーい。聞いておるか?」
「・・・・・・。」
「のう、お主。仕事をせぬのか?」
「・・・聞いてるよ。」
 本を読む姿勢のまま、顔も上げずに司書がぶっきらぼうに答えた。
「児童書なら西の3番通路。」
「じ、児童書じゃと?児童書などに興味はないわ!医学書じゃ医学書。医学書がどこにあるか教えよ。」
「医学書?君みたいな子どもが?」
 顔を上げてリュリュを見た司書の顔は、明らかにリュリュをバカにしたような表情を浮かべていた。
「ぶ、無礼者!リュリュは子どもではない!こう見えて立派な十二歳じゃぞ。」
「・・・子どもじゃないか。」
 そう言って司書は本に視線を落とし、憤慨したリュリュはバンバンとカウンターを叩いた。
「子どもではないのじゃ!」
「うるさいなぁ・・・わかったよ。医学書は東の5番通路だ。」
「まったく、最初からそう言えばよいものを。」
 ぶつぶつ言いながらリュリュが立ち去ろうとした時だった。
 リュリュよりも少し年下の少女が現れて司書に尋ねた。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん。わたしお料理の本がほしいのよー。」
「ん、料理だね。なんの料理の本かな?」
 先ほどのリュリュの時の対応とは打って変わって、司書はカウンターから身を乗り出すような格好で、優しげな表情と声色で少女の相手をしている。
「シチュー。」
「わかった。シチューだね。じゃあ一緒に行こうか。」
 そう言ってカウンターから表に出た司書を、リュリュは大きな声で呼び止めた。
「ちょっと待てい!」
「・・・何だよ。まだいたのか。児童書なら西の3番通路だって教えただろう。」
「まだいたのか。ではないわ!なんじゃリュリュとその娘に対する態度の差は。と、いうか児童書に用はないと言っておるじゃろうが!」
「ふん。君は子どもじゃないんだろう。だったら一人で大丈夫じゃないのか?それともこの子みたいに手をつないで棚まで連れていけばよかったのか?」
「どうしてそうなる!そうではなくて、ちゃんと対応せよと言っておるのだ。リュリュを人間とも思わぬような扱いをしおっていったいどういうつもりじゃ。」
「・・・人間扱い?」
 リュリュの言葉を聞いた司書の表情がみるみるうちに険しくなっていく。
「人間扱い。君の口からそんな言葉を聞くことになるとは思わなかったよ。リュリュ・テス・グランボルカ。」
「な・・・貴様、リュリュの事を知っておるのならなおさらじゃぞ。不敬だとは思わぬのか?リュリュが一言言えば貴様の首を飛ばすくらい、造作も無いことだということをよく考えよ。」
「知っていたから人間扱いをしなかったんだよ。僕はお前のことが大嫌いだからね。」
「は・・・はぁっ?なぜじゃ。リュリュは貴様のことなど知らぬし、恨まれる覚えもないぞ。」
「僕は、十年前、君の父親が滅ぼした国、リシエールの生き残りだ。」
「・・・・・・。」
「それだけで僕には君を恨む理由がある。」
 

「恨む理由か・・・。」
 司書に言われた言葉は、図書館を後にした後もリュリュの胸に突き刺さっていた。
「どうかされましたか、リュリュ様。」
 リュリュが肩を落として廊下を歩いていると、後ろからオリガが声をかけてきた。
「オリガか・・・。そういえば、オリガも元リシエール人じゃったのう。」
「え?はい。そうですが。」
「・・・少し話を聞いて貰えるかのう。」
 リュリュは歩きながらぽつりぽつりと図書館でのことを話始める。
「なるほど。リシエール人だからリュリュ様が憎いと。うーん・・・わたしには理解できませんね。たしかに十年前、いきなり『国がなくなります。明日からグランボルカ帝国の国民です』と言われたときは驚きましたけど、それとリュリュ様は直接関係ないですし。」
「父上のした事ゆえ、直接関係ないとも言い切れんがのう・・・。それにしてもオリガ。あの図書館の嫌味メガネは何者なんじゃ?あやつリュリュが不敬罪で首をはねると申しても鼻で笑いおったのじゃ。只者ではあるまい。」
「司書は何人か居ますが、おそらくリュリュ様が言っているのはシリウスでしょうね。他の司書は何人かでシフトに入っているのですが、彼は一人ですべてこなすという条件と引き換えに、一人でシフトをしている変わり者なんです。」
「ふむ。だがすべての仕事などと言いつつ、奴はずっとカウンターの中で本を読んでおったぞ。」
「彼は朝が早いですからね。日が昇る前には図書館の掃除をしていますし、もうこの時間にはひと通りの仕事は終わっているはずですよ。」
「オリガ、お主妙にくわしいのう。もしかして、あのメガネに執心なのか?だとしたら正直言ってオリガの男の趣味を疑うが。」
「いえ。彼はエドの弟なんですよ。ですから、彼女から話を聞くことが多くて、自然と事情に詳しくなってしまったんです。」
「ふむ。エドの・・・弟のう。」
 昨日、晩餐の給仕をしてくれていたエドの様子をみるかぎりは、彼女がリュリュを。ひいてはグランボルカ帝国を恨んでいるといったようなことはないように見えた。と、いうかそもそもあの陰険な、全てのものが面白く無いと言わんばかりの司書と、ジゼルと冗談交じりのやり取りをして、世界のすべてが素晴らしいと思っていそうなエドとがとても姉弟だとは思えない。
「あまり似ていないのう・・・。」
「ですよね。わたしもそう思います。ただ、シリウスもエドもアンドラーシュ様が直々に連れていらしたので、司書長もシリウスには手が出せないらしいのです。・・・正直、あまりシリウスに無法を働かれてしまうと、同じ元リシエール人としては少し肩身が狭くなるのですが。」
「オリガはよくやっておるし、奴一人のせいでオリガの評判が下がるようなことはないじゃろ。オリガは真面目じゃし、シリウスのような陰険さもないしのう。それに何より、強い。」
「いえ、私などまだまだ。お恥ずかしい話ですが、エドにも試合で負けるな有様ですから。」