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七ケ島 鏡一
七ケ島 鏡一
novelistID. 44756
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グランボルカ戦記 1 紅と蒼の姫

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「だから辞めるか・・・確かに今回君は何もできなかったかもしれない。だが、次は君にしかできないことがあるかもしれない。この先君がいることで助かる命があるかもしれない。戦いに身を置くということ言うことは、君の命を賭けるというこということだから無理強いはできないけれど、僕としてはあのアリスが褒めるほどの技術を持つ君に、この先も一緒に戦って欲しいと思う。」
「・・・私なんかに、できることはありませんよ。」
「ある。絶対にだ。現に僕は君に一つ頼みたい仕事がある。」
「え・・・?」
「僕を城に連れていってくれ。」
 真顔で頼むアレクシスの様子に、キャシーが思わず噴きだした。
「あはっ・・・あ、すみません。」
「やっと、笑ってくれたね。もちろん城に連れていってくれというのは冗談だけど、君には本当に頼みたい仕事があるんだ。医術を志す女の子に、君の技術を教えてあげて欲しい。」
「教える・・・ですか?」
「ああ。詳しいことは後で話すよ。今は時間がないからとりあえず急いで城へ向かおう。」
 そう言ってアレクシスが走りだそうとするのをキャシーが慌てて止める。
「そっちじゃありません!何で城が見えているのに逆に走りだそうとするんですか!」

 ジゼルが中庭に現れると、会場は一瞬静まり返った。
 彼女が着ていたのは、普段鮮やかな色を好む彼女からは予想ができないような漆黒のドレスであった。
 どういう意図で彼女がそのドレスを着ているのか。その意図がわからない者はこの場には居なかった。
「ジゼル、大丈夫?」
 誰もが遠巻きに彼女を見ている中で、エドがいち早く彼女に近づいて声をかけた。 
「・・・ええ。大丈夫よエド。心配かけたわね。」
 グレンの葬儀が終わってからの一週間、部屋に籠りきりだったジゼルは、少し頬がこけていた。
「何か飲む?」
「そうね、ジュースをお願い。」
「ほら、グレープフルーツでよかったよな。」
 いつの間にきていたのか、レオが横からグラスを差し出していた。
「ありがとう、レオ。」
「ああ、無理すんなよ。」
「大丈夫。顔を出しにきただけだから、すぐ部屋にもどるわ。」
 レオはジゼルの返事に頷くと、少し離れた所で、ジゼルへの好機の視線を防ぐようにソフィアと二人で話し始めた。
「ジゼル姉様!」
 ジゼルの名を呼びながら心配そうな顔で駆け寄ってきたリュリュを抱きとめるとジゼルはやさしくリュリュの頭をなでた。
「心配かけたわね、リュリュ。もう大丈夫よ。」
「その・・・グレンのことは、リュリュの力が足りずに・・・申し訳ありません。」
「リュリュは精一杯よくやってくれたわ。あなたのお陰で最後に彼とちゃんと話ができてよかった。わたし、あなたには本当に感謝しているのよ。ありがとう。」
「姉様・・・。」
 ジゼルの登場で静まり返っていた会場が、突然今度は歓声でわっと沸いた。
 アレクシスが、一人の淑女を連れて現れたのが原因だった。
「ん・・・あれ、もしかしてキャシーか?」
「あ、本当だ。キャシー!」
 最初に彼女の正体に気づいたのはレオだった。ソフィアもすぐに気がついて大きな声を上げて手をふった。
 キャシーの方もすぐに気づき、アレクシスに一礼すると、ソフィアの方へ駆け寄ってきた。
「よかった!戻ってきたんだね。除隊願いを出したなんて聞いていたからもう会えないのかと思ってたよ。」
「うん・・・本当はそのつもりだったんだけど、もう一回頑張ってみようと思って。」
 そう言って、キャシーはちらりとアレクシスに熱のこもった視線を送る。
「ていうか、あれだな。皆ドレスとか着るといつもと印象が違うよな。オリガとかキャシーなんか最初誰だかわからなかったし。」
「わたしは?」
「お前は別にそんなに変わらねえな。」
「ひどいよ・・・。」
「まあまあ、きっとレオはソフィアはドレスなんか着ないでも充分綺麗だって言いたいのよ。」
「そういうことか!もう、レオ君ったら照れ屋さんなんだから。」
「違うし!キャシー、本当にやめてくれよ。こいつすぐに本気にするんだからよ。」
「いいじゃない。もうそろそろ覚悟を決めたほうがいいわよ。」
「お話中ごめんなさい。・・・あなたがキャシー?」
「はい・・・あ、ジゼル様・・・。」
 ジゼルから声を掛けられて、キャシーは緊張気味に返事をした。
「・・・あなたの報告が適切であったおかげで、グレンの治療がスムーズに進んだとカーラ大隊長から聞きました。礼を言います。ありがとう。」
 深々と頭を下げるジゼルに恐縮してキャシーも頭を下げる。
「そ、そんな。私なんか何も出来なくて。その・・・すみませんでした。」
「謝らないで。あなたには本当に感謝しているんだから。よかったら今度、お茶でもどうかしら。私ね、あなたとゆっくりお話がしてみたいの。」
「は・・・はい。恐れ入ります。わたしなんかでよろしければいつでもお声かけ下さい。」
「ええ、約束よ。さ、そろそろ式典が始まるわ。壇上へお行きなさい。」
 ジゼルに言われてキャシーが壇上を見ると、既にアンドラーシュが壇上に上がっており、参加者達もその周りに集まり始めていた。
「私は体調がすぐれないから部屋に戻るけど、彼の分までしっかりね。」
「はい!」
 力強く返事をして、キャシーはレオとソフィアと共に、エド達のところへと歩いていった。
 ジゼルはその様子を見届けて、一本の酒瓶を持って会場を後にした。


 ジゼルが墓地に着くと、レクイエムと言うほど暗くもない曲調の、優しいリュートの調べと、歌声が聞こえてきた。ジゼルが歌声に引き寄せられるように歩いて行くと、歌声の主は、グレンの墓の前に腰を降ろして歌っていた。
「アリス・・・あなた、どうしてここに?」
「こんばんはジゼル様。いい夜ですね。」
 リュートを弾く手を止めて、アリスはジゼルの問いかけには答えずに、にっこりと微笑んだ。
「・・・変な奴。」
 ジゼルは会場からくすねてきた酒瓶をグレンの墓の前に置くと、アリスの横に腰掛けた。
「お互い様ですよ。・・・とは言え、お邪魔でしたら退散しますけど。」
「いいわよ、むしろ一緒にいて頂戴。こいつはどうせ答えてくれないんだから。」
 そう言ってちらりとグレンの墓に視線を送ると、ジゼルはため息をついた。
「で、なんであなたがここに居るの?本当ならあなたは今、中庭で表彰の真っ最中のはずだけど。」
「あまり興味がないし、正直に言ってしまえば面倒なので、妹のクロエに代わってもらいました。多分アレクとレオは気づいていると思いますけど、もしかしたらオリガは気づいていないかも。」
「・・・妹さんに同情するわ。」
 悪びれもせずいたずらっ子のような笑顔で言い放つアリスに、ジゼルは苦笑しながら答えた。
「ジゼル様こそ、会場にいらっしゃらなくてよろしいんですか?」
「いいのよ、今日の主役はアレクとエドだもの。それにこう見えて、私ってあまり騒がしいのは好きじゃないしね。」
「あら偶然。わたしもです。」
「嘘ね。」
「ええ。ジゼル様もですよね。」
「まあね。・・・でも、今日だけは嘘じゃないわ。明日からしばらく彼の側に来ることもできなくなるだろうから、今日だけは煌びやかな場ではなくて、ここにいたい気分なの。」