グランボルカ戦記 1 紅と蒼の姫
「いきなり背中向けて走りだしたから何かと思ったらそういうことかよ。ったく。」
「レオ君!」
レオがもう一人の男の顔面に膝蹴りを入れて倒し、それを見たソフィアが歓喜の声を上げた。
見事に一撃で大男を沈めたレオを見て、デールが感心したようにつぶやく。
「ふむ・・・それにしても、さっきから気になっていたんだが、君のその防御できない攻撃は何なんだ?そういう魔法か?」
「教えねえよ。つーか、あんたこそ何で全部防御できていないのに倒れないんだよ。致命傷は防げたってダメージが抜ける訳じゃないんだろ。普通ならもう立っていられない位のダメージはあるはずなんだけどな。」
「はっはっは。私は、身体が頑丈なのが取り柄でね。そのせいで致命傷にならない攻撃には魔法が発動しないんだよ。・・・デール・ジャイルズだ。」
そう言ってデールは笑顔でレオに手を差し出した。
「レオだ。レオンハルト・ハイウインド。」
「ふむ・・・ハイウインド。なるほど、君はもしかして・・・。」
レオがデールの手を握り返しながら言ったフルネームを聞いて、デールが口を開きかけるが、レオがそれを制した。
「ま、家のことはあんまり言わないでくれ。あんまり好きじゃないんでね。」
「てめえ、何、人の事無視してんだこらぁ!」
残った一人が大声を上げて去勢をはるが、デールもレオも冷ややかな目で男を見ている。
「悪いことは言わないから、降参しとけ。」
「そうだな。私もそれを薦める。」
「ああっ?ふざけん・・・ぐぁ・・・」
後ろからソフィアとアンジェリカの二人に殴られ、最後の一人も気絶した。
「さて。これで全面降伏ってことでいいかしら?」
全てが終わった後で、アリスが4人の所へと近づいてきてアンジェリカとデールに確認を取る。
二人は頷き合ってアリスの前に膝まずく。
「我ら、アミサガン軍一万、ここに降伏を宣言致します。」
「何卒、兵たちには寛容な扱いをお願いいたします。」
「了解しました。降伏を認めます。・・・と、言っても、本格的な開戦前でしたし、このまま全軍を併合させてもらうことになると思いますけどね。」
そう言って、アリスが穏やかに笑った時だった。
轟音を立てて人が降ってきた。
一人はアリスの知らない人間。もう一人はアリスの知っている人間だった。
知らない方の人間は、一目で助からないとわかる状態。もう一人はかろうじて息がある状態だった。
「グレン君!」
最初に悲鳴のような声を上げて駆け寄ったのはソフィアだった。
「動かすな!・・・衛生兵!」
ぐったりとしたグレンを抱き起こそうとするソフィアを制して、アンジェリカが本陣に向かって叫ぶと、数人の衛生兵が走ってやってきた。
「・・・どうだ?」
「あまりよくないですね。落ちるときにあちこちぶつけている。・・・正直、生きているのが奇跡です。」
治療をしながら答える初老の衛生兵の男性の額には汗が浮かんでいる。
「助かる確率は?」
「・・・1割を切るかと。」
「・・・聞こえるか?聞こえたらどこでもいい。一回動かせ。」
アンジェリカの問いかけに、グレンのまぶたが、一回動いた。
「正直、君が助かる確率は少ない。どうする、楽になりたいか?」
今度は微かに、本当に微かにグレンの首が横に動く。
「・・・ねない。・・・が・・・る。」
途切れ途切れではあるが、力強い声を聞いてアンジェリカも強くうなづいた。
「わかった・・・アリス殿は先導をお願いします。ここでは設備もない。彼を馬車で城に。」
「わかりました。」
「兵長、君はできるだけの装備を持って彼と一緒に馬車で城に向かえ、バカな戦いをしなくてよかったのは、彼らのおかげ。何が何でも助けるんだ。」
「承知しました。」
「わ、私にも手伝わせてください!」
オリガに抱えられて崖を降りてきたキャシーが叫ぶ。
「グレンは私をかばって・・・だから・・」
「・・・早く馬車に乗りなさい。貴女が居たほうが話が早いわ。処置の手も多いほうがいい。」
アリスは、アンジェリカから借り受けた馬にまたがると振り返って指示をだした。
「私は先に行って設備の準備をするように要請を出しておきます。オリガ、あなたはレオとソフィアと一緒にアミサガン軍の武装解除を。」
「わかった。」
「お願いね。」
アリスはそう言って馬の腹をけると、全速力で馬を走らせ、グレンとキャシーを乗せた馬車もその後を追った。
作品名:グランボルカ戦記 1 紅と蒼の姫 作家名:七ケ島 鏡一