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七ケ島 鏡一
七ケ島 鏡一
novelistID. 44756
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グランボルカ戦記 1 紅と蒼の姫

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「はっはっは。いやあ、これはこれは、嬲りがいのありそうな女性がきたものですね。貴女やあっちの彼女のような女性を与えてやれば兵士たちの士気も上がるというものです。くくく・・・。」
「どうやら、わたしが当たりと言うわけね・・・念のために確認しますけど、あなたがエリヤス男爵で間違いないですね?」
「いかにも。私がエリヤスですよ。・・・アリス・シュバルツ将軍。」
「・・・あら、私って意外と有名人なのかしら。」
 エリヤスに見事に正体を見ぬかれたアリスに、一瞬動揺の色が浮かぶ。
「貴女があの街に滞在していることはわかっていましたからね。奇襲戦を得意とする貴女が奇襲を仕掛けてくるのは予想していましたよ。まあ、ご本人がいらっしゃるとは思っていませんでしたが。」
「・・・・・・」
「歴戦の女将軍を好きにできるなんて部下たちはさぞ燃え上がるでしょうな。ああ、でも貴女は部下たちにはもったいない。辱めず剥製(はくせい)にして我が家に飾るのもいいかもしれませんね。貴女にはその価値がある!」
「それ・・・いままで言い寄ってきたどの男性よりも最低の口説き文句ですよ。」
 若干引きつった笑いを浮かべながら言ったアリスの言葉を聞いてエリヤスは満足そうに笑った。
「その言葉、私にとってはご褒美ですよ。」 
 気味の悪い笑顔を浮かべてエリヤスが剣を振りかぶる。
「壁に賭けるのなら、どうせ肘から先はいらないんですから、さっさと切り落としましょうかね。」
「ごめんなさい。こう見えて、本業は旅芸人だったりするものですから、大事な商売道具をそう簡単に切り落とされるわけには行かないんです。」
 そう言いながらエリヤスが振り下ろした剣をかわして、アリスはモーニングスターの鉄球をエリヤスに飛ばす。
 鉄球は的確にエリヤスの顔に向かって飛んでいったが、エリヤスはいとも簡単にその鉄球を剣で払い落とした。
「・・・私は少し貴方のことを侮っていたかもしれませんね。少しテンションを上げて行きましょうか。」
 アリスはそう言って笑うと、小さな声で歌いだす。
「おお・・・歌声も美しい。そうだ、剥製(はくせい)などではなく、生きたまま壁に埋め込んで歌う胸像にするのもいいかもしれませんね。毎朝私の為に歌ってくださいよ。」
 アリスはエリヤスの挑発に動揺することもなく、歌い続ける。そして、逆に挑発するようにエリヤスに向かって指でかかってこいというジェスチャーをしてみせた。
「・・・いいでしょう。まずは手足を落として身動きを取れなくして差し上げますよ。芋虫のように這いずりまわる貴女もきっと美しい。」
 エリヤスが振り回す剣をすべて寸での所でかわしながら、アリスは更に歌い続ける。
 やがて、アリスの歌が終わりを迎えると、エリヤスは何が起こったのかわからないまま地面に転がった。
「・・・え?今いったいなにdfdvr?」
 言葉にならない言葉を発しながら、エリヤスは必死に立ち上がろうともがくが、上手く身体が動かない。
「貴方の感覚を狂わせる歌を聞かせました。」
「ひゃぁ?ないおljk?」
「どうです?自分の身体が自分の思うとおりにならないと言うのは怖いでしょう?」
 凍りつきそうな冷たい視線を浴びせながらアリスがエリヤスを睨みつける。
「貴方の噂は聞いたことがありました。暴動の鎮圧という大義名分を掲げて、攻めいった村々での悪虐非道の限り。略奪、強姦。そして串刺し。さぞかし沢山の人に恨まれているんでしょうね。ほら、今だってあなたの首に手をかける人が・・・。」
 アリスの言葉を聞いたエリヤスは恐慌状態に陥り、自分の首を締める亡者の手の幻覚を見る。
「あらあら大変。沢山集まって来ちゃったみたいですね。」
 エリヤスの目に映る亡者の数はどんどんと増えていき、沢山の手がエリヤスの首を締める。
「ほらほら、早くその腰の短剣で手を斬り落とさないと。・・・死んじゃいますよ。」
「し、死にたsmにふぉ@!」
 エリヤスは腰の短剣を抜いて自分の首にまとわりつく手に斬りつける。しかし、そこには当然まとわりつく手などは存在しない。
自分で振り回した短剣はエリヤスの首を何度も何度も傷つけた。浅いものから深いもの。血が吹き出るもの。大小様々な傷がついていくが、エリヤスは意味不明な言葉を喚きながら自分の首を斬りつけ続ける。やがて、エリヤスの振り回したナイフが彼自身の喉笛を深く切り裂いた所で、喚き声はヒューヒューという音に代わり、やがてその音もしなくなる。
 それを見届けたアリスは、一つため息をつくと、ソフィアとレオの方へと視線を向けた。

 手数では圧倒的にこちらのほうが上だ。
 実際急所を狙っている打撃も何発か入っているのだ。
 だが彼は倒れず、やむを得ず繰り出した、致命傷になりそうなナイフの攻撃は尽く防御されてしまう。そんな事は起こるはずがないはずなのに。
「ち・・・何なんだよ、お前。なんで俺の攻撃を防御できるんだよ。」
 決着がつかない戦いに焦れたレオが声を上げた。
「君の方こそ何なんだ。なぜ防御ができない。」
「はぁ?どういう意味だそりゃあ。」
「どういうもこういうもないだろう。何故私の自動(オート)防御(ガード)以外では防御ができないのかと聞いている。」
「ああ、なるほど。それがあんたの魔法か。」
「いかにも。私の魔法は自動(オート)防御(ガード)だ。致命傷になるような攻撃は全て魔法が防いでくれる。」
「あんた馬鹿だろ。相手に手の内を晒してまともに戦えるとでも思ってんのか?」
「当たり前だ。私には磨きぬいた剣技があるからな。私の魔法がバレた所で問題はない。」
 そう言ってデールは不敵に笑うが、彼の持っている得物はどう見ても戦(ハー)斧(ケーン)だ。
「・・・ツッコミ待ちか?」
「何がだ?」
「何でもねえよ。」
 レオが地面を蹴って、もう何度目になるかわからない攻撃をかける。
 右手に持ったナイフでの斬撃はあっさりとデールの戦(ハー)斧(ケーン)に受け止められるがそんな事は計算の上だ。
レオはそのままナイフと戦(ハー)斧(ケーン)を支点にして飛び上がり、デールの後ろに回ると自身の魔法を発動させた。レオの魔法の影響で振り返ることもしないデールの背中を見て、レオがため息をついた。
「強いんだか強くないんだか。まあ、それは俺も同じか。」
 そう自嘲的に言って、レオはナイフを両手持ちに持ち替えて攻撃を仕掛ける。
「悪いな。殺すつもりはないけど、しばらくじっとしててもらうくらいの怪我はしてもらうぜ。」
 レオはそう言って渾身の力を込めて、体ごとデールにぶつかっていった。
 だが、デールはそのナイフを再び戦(ハー)斧(ケーン)で止めてみせた。
「うそだろ・・・。」
 ナイフと戦(ハー)斧(ケーン)がぶつかる、キンという音が合図であったかのように、世界が再び動き出す。
「完全に死角のはずだろ。大体何で俺の魔法の範囲の中で防御なんかできんだよ。ありえないだろ。」
「君の魔法がどんな魔法なのかはよくわからないが、私の自動(オート)防御(ガード)のほうが、レベルが高いということなのではないかな。」
「チッ、パッシブマジックはこれだから面倒なんだよ。」