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七ケ島 鏡一
七ケ島 鏡一
novelistID. 44756
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グランボルカ戦記 1 紅と蒼の姫

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「と、とにかく。突撃は明日の朝。日の出と共に開始よ。」
 アリスはそう言って、ソフィアの手を振り払い、ポツリとつぶやくように続けた。
「むしろ・・・私のほうこそ、信じてついて来てくれてありがとうって言わなきゃいけないのよね。」
「え?なんですか隊長。」
「聞こえないっすよー。」
 聞こえているくせに、そう言ってはやし立てるグレンとレオをアリスは唇を噛んで涙目になってキッと睨みつける。
「レオ君!」
「グレン先輩!」
「う・・・いや、本気になんなよ。」
「じょ、冗談っすよ、本気にしないでくださいね隊長。」
 アリスだけでなく、ソフィアとオリガにも睨まれてレオとグレンが困ったような笑顔で弁解する。
「あ、そうだ。罰として二人は晩ご飯抜きにしましょうか。」
「ちょ・・・勘弁してくれよキャシー。」
「そうだぜ、腹が減っては戦はできないって言うだろ。」
「でも、さっきこんな堅いパンがどうだとか言っていたような気もするし。」
 食事係でもあるキャシーにとって、先ほどのレオの暴言は地味にイライラさせるものだったらしく、冗談めかして言ってはいるが、キャシーの目は全く笑っていなかった。
「あれも冗談だって。いくら保存食だって言ったってキャシーの手料理がまずいわけないじゃないか。なあ、グレン」
「な・・・俺を巻き込むんじゃねえよ。で、でもマジでうまいって。」
「ああ、うまいうまい。」
「え・・・二人共味覚おかしいんじゃない?もうなんかそのへんの土でも食べてたらいいんじゃない?」
「おい!」
「なんでだよ!」
 せっかく褒めたのにキャシーのあんまりな反応に、レオとグレンが頭を抱えてのけぞりながら抗議の声を上げる。
 そんな二人の様子を見ていたアリスが、噴きだした。
「ぷ・・・あははは。二人共おかしい、あははは。」
 そのアリスの様子を見ていたソフィアがほっとしたように微笑んだ。
「よかった、アリスちゃん、ここのところずっと難しい顔していたからみんな心配してたんだよ。」
「え?」
「ま、そういうことだ。誰が一番心配って、キャシーよりグレンより隊長だったからな。」
「あんまり食事も食べてくれないし。」
「ため息ばっかりついていたしな。」
「みんなアリスを心配していたんだよ。なんだか思いつめた顔をしていたからさ。」
「・・・そうね、確かにオリガの言うとおりかもしれない。ちょっと一人で抱え込んじゃっていたかもね。改めてちゃんというわ。みんな、ついて来てくれてありがとう。明日はよろしくね。」

 アレクシス軍は既に一つ山をかけおりれば、期限前にイデアの街の包囲を完了させたアミサガン軍に到達できるところまで来ていた。
 予定よりも早い行軍だったため、その日は早めに野営をし、陽が落ちるころには、見張り以外はテントの中に入った。
 疲れていたからだろう。早めの就寝だったにもかかわらず、皆すんなりと眠りに入っていった。
「・・・ジゼル、眠れないの?」
 エドがつぶやくような声に目を覚ますと、月明かりに照らされたテントの中でジゼルが祈りを捧げていた。
「あ、起こしちゃった?ごめんなさい。」
「ううん、いいよ。どうしたの?やっぱり不安?」
「まあ、不安・・・なのかしらね。なんだか嫌な胸騒ぎがするのよ。」
「戦争・・・だからね。」
「エドは?不安じゃないの?」
「私には不安がったり、嫌がったりするような資格はないよ。元々は私のせいで始まったみたいなものだし。」
「エド・・・。」
「ああ、別に全部自分のせいだなんて思ってないよ。でも過失はなくても責任はあるから。」
 エドはそう言って起き上がるとジゼルの横に座ると、ニヤニヤと笑いながら問いかけた。
「で・・・ジゼル。本当は誰の心配をしていたの?」
「え・・・?あ・・・えっとその。」
「アンじゃないよね。」
「・・・・・・。」
 沈黙を肯定と取ったエドはさらに続ける。
「もちろんヴィクトルさんや城の皆でもない・・・いや、城の人は城の人なのか。」
「エド、あんたもしかして知って・・・。」
「ジゼルのことで知らないことなんかないよ。・・・っていうか、有名だしね。」
「・・・。」
「でも、私の話はちゃんとしたのに、ジゼルの話はちゃんと聞いた事ないなあ。あーあ。寂しいなあ。」
「・・・そうよ。あんたの考えている通り、あたしはグレンの心配をしてんのよ。何よ、悪い?あんたも身分がどうだとか言うわけ?」
「言わないよ。そんなこと。」
「え・・・?」
「言われているのは知っているけどさ。」
 実際、警備隊の入隊が同期であったジゼルとグレンの仲の良さは城の中でも噂にはなっていた。
 そして、そのことを妬ましく思う人間によって、グレンが嫌がらせを受けていることをエドは知っている。
『平民のくせに。』
『ジゼル様に近づくのは下心があってのこと』
 そんな中傷は日常茶飯事だ。もちろんジゼルの耳にも入ってくるが、それを咎めればますますグレンへの風当たりは強くなる。
 ジゼルは何も出来ず、ただグレンに謝るしかなかった。するとグレンはいつも、「気にするな」とジゼルの頭に手を置いて笑った。
「さっき伝令の人から聞いたんだけど、あいつね・・・特別部隊に志願したんだって。」
「アリスの隊だよね。たしかオリガやレオやソフィアも一緒だって伝令の人が。」
「うん・・・あいつ弱いからさ。心配なのよ。」
「そんなことないでしょ、弓は城内なら右に出る人間はいないし。」
「アレクに聞いたんだけど、あの女が得意なのは、奇襲戦。つまり、あの女の隊は敵将の首を取るための特別部隊よ。基本的には接近戦がメインだもの・・・。」
「そんなに心配?」
「うん・・・。」 
「そっか。じゃあ私も一緒にお祈りしようかな。グレンだけじゃなくて、皆の分も一緒にさ。」
 そう言って笑うと、エドはジゼルの横で祈り始めた。


 その日、日の出と共に出発したアリス達は朝霧に紛れて敵本陣の真上の崖まで移動することに成功した。
「じゃあ、よろしくね皆。・・・絶対全員揃って帰るわよ。」
 アリスの言葉に全員が力強く頷いて、各自が持ち場についた。
 まずアリスたちが降下を始めた。
 キャシーが遠眼鏡でアリスたちが降下をし終わったことを確認すると、グレンが爆発札を括りつけた矢を射り、本隊と本陣を分断する。爆発札によって突然爆発が起こった敵本隊は大混乱をきたした。
 その様子を見たアリスはレオとソフィアと頷き合うと、自分の得物である小ぶりなモーニングスターを二本取り出して両手に持った。
「よし、いくわよ、二人共。」
 レオとソフィアもそれぞれ武器を持ってもう一度頷く。
 まず、アリスが飛び出して本陣真ん中に陣取っていたキツネ目の男に飛びかかる。
 キツネ目の男、エリヤスはアリスの襲撃に見事に反応し、自分の剣を抜いてアリスのメイスを受け止めた。
「あら、絶対取ったと思ったの・・・にっ!」
 アリスはそのままつばぜり合いを力づくで押し切ると、エリヤスに蹴りを入れ少し後ろに飛んで距離を取り、メイスの柄についたボタンを押して武器をモーニングスターへ変化させた。