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七ケ島 鏡一
七ケ島 鏡一
novelistID. 44756
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グランボルカ戦記 1 紅と蒼の姫

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4 奇襲部隊


「なあ将軍閣下。正直言って・・・あの子使うの、厳しくないっすか。」 
 同僚たちの訓練風景を見ながらレオがつぶやく。
「厳しくても、やる気がある人間を無下に扱うわけにはいかないでしょう。ただでさえ人手が足りないんだから。」
 アリスがレオの言葉を受けて答えるが、その声にはため息が混じっている。
 結局アリスの呼びかけに答えてあつまったのは、たったの二人。一人は浅黒い肌をした黒髪の警備隊の男性。もう一人は茶色い髪をした小柄な女性だった。それも、女性の方は警備隊でもない、医療班の人間だ。
 こうして訓練をしていても男性の動きは突出した何かがあるわけではないが、そつがなく、問題がない。剣を持つ手にも力が入っており、足取りも軽い。
 しかし女性の方は、通常の剣よりも細身のレイピアであるにもかかわらず、その重さに振り回されている。
 挙句、振り回した時の勢いでレイピアを離してしまった。
「はぁ・・・そこまで。キャシー、あなたソフィアと代わってレイピア拾って来なさい。もどってきたらオリガと一緒に基礎訓練。わかった?」
「は・・・はい!」
 そう言ってキャシーは飛んでいったレイピアを探して走っていった。
 走っていくキャシーを見送った後、アリスは一人で素振りをしていたソフィアに向き直って尋ねる。
「ソフィア。新しい武器はどう?」
「うーん・・・軽いね。何も持っていないような感じ。もっとこう、ずっしり来るような物の方が好みなんだけど。」
 ソフィアはそう言って自分の身長ほどのハルバートをくるくると回した。
 以前にソフィアの失敗を嫌というほど見せられていたアリスは、アンドラーシュがジゼルから帰還札を奪って戻ってきたレオとソフィアを使うように言ってきたときに、ソフィアに対して露骨に嫌な表情をみせたが、実際に実力を見て自分の隊への編入を認めた。
「あなたの魔力にあわせてチューニングしてあるからそう感じるみたいね。実際には相当な重さがあるし、貴女の肉体強化の魔法も強力なんだから扱いには気をつけて。グレンも気を付けないとそのグレートソードごと叩き潰されるわよ。」
「はーい。」
「りょ・・了解。」
 アリスの言葉に、ソフィアはニコニコと答え、グレンは冷や汗を流しながら答えた。
 ソフィアの実力は素の状態でもグレンの上を行く。そのソフィアにカスタマイズされたエンチャント武器が与えられたとなると、グレンにとってはまさに命がけの試合となる。
「レオ君、ちゃんとそこに居てよ。」
「あー、はいはい。ちゃんといるからしっかり戦え。」
レオがそう言って答えた後、手近にあった岩の上に寝っ転がった。
「じゃあ、グレン君。行くよ。」
「お・・おう。」
 身構えるグレンに、ソフィアがハルバートを大きく振りかぶって襲いかかる。
「うわっ、ムリムリ!」
 殺気の塊のようなそれを剣で受けるのを諦めたグレンが横に一歩ずれてかわすが、地面を叩いたソフィアのハルバートは地面に小さなクレーターを作った。
「死ぬ・・・これは死ぬって。」
「死ぬなぁ・・・。」
「死ぬわね・・・。」
「死ぬわね・・・じゃないですよ!俺を殺す気ですか!」
 レオとアリスの言葉にグレンが声を上げるが、当のアリスは涼しい顔で答えた。
「あなた、攻撃を避けるの上手だし大丈夫だと思って。」
「・・・おい、オリガ。この人何とかしてくれよ。お前の知り合いなんだろ。」
「はい・・・それはまあ、そうなんですが・・・。」
 同じ部隊の先輩であるグレンに言われてオリガが返事をするが、その言葉は歯切れが悪い。
 確かにアリスとオリガは友人だが、今は上司と部下だ。公務中にその上司と部下の関係を超えて友人として話をして良いものかどうか。オリガがそんなことを考えてオロオロとしていると、見かねたアリスが助け舟を出した。
「グレン。そういうの、パワーハラスメントって言うのよ。」
「あんたがいうのかよ!・・・つか、エンチャント武器に普通の武器で戦うっていうのが、そもそも無理なんですよ。俺にも何かくださいよ、新しい武器。」
「エンチャント武器にはエンチャント武器じゃないと太刀打ちできないとか、そんなことないのよ。・・・ソフィア、あなたちょっと本気でかかってきて。さっきグレンにしたのよりも本気でね。」
「ええっ?でもそんなの危ないよ、アリスちゃん。」 
 そんなことを言い、一向にかかってくる気配のないソフィアの様子にため息をつきながらアリスはレオに近づいた。 そして、レオの顔に自分の顔を近づけると、ソフィアからは見えないように自分の顔でレオの顔を覆った。
「・・・っがぁぁぁっ!」
 その様子を見ていたソフィアは目を見開いて声にならない叫び声を上げてアリスに斬りかかった。
「よく見ていなさい、グレン。」
 そう言ってアリスはレオの腰のホルダーから短剣を抜くと、その短剣を横に振り、見事にソフィアのハルバートの直撃を逸らした。
「と、まあこんな風にね。別にエンチャントなしでも戦えるでしょ。」
「殺す・・・殺す、殺す、殺す、殺す殺す殺す殺す殺してやるぅ!」
 地面に突き刺さったハルバートを抜いて、ソフィアが再びアリスに襲いかかる。
「あらあら。」
 横薙ぎに払われたハルバートの上にふわりと飛び乗ると、アリスは楽しそうに笑った。
「そんなに怖い顔をしてると、大好きなレオ君に嫌われちゃうわよ。」
 アリスはそう言いながらハルバートの柄の上から飛びあがり、ソフィアの後ろに着地すると手刀で首の後ろを叩いて気絶させた。
「・・・ああいう悪ふざけは本当にやめてほしいんですけどね。」
「ごめんなさい。まさか、ここまで怒ると思ってなかったのよ。・・・この子、本当にあなたのことが好きなのね。こういうストレートな感情、ちょっとうらやましいわ。」
 アリスはそう言いながら、ソフィアを抱き起こすと活を入れて覚醒させた。
「あ・・・あれ?」
「ごめんなさいねソフィア。さっきのあれ、お芝居なのよ。私はレオに何もしてないから安心して。」
「・・・酷いよアリスちゃん。もー、本当にしたと思っちゃったでしょ。」
「本当にごめんなさい。もうしないから。」
 そういって顔の前で手をあわせて謝るアリスを見て、ソフィアがため息混じりにしかたないなあと、微笑んだ。
「・・・次は本気で怒るからね。」
「ええ。本当にごめんなさいね。」
 微笑みを消して念を押すソフィアに、アリスは微笑みを消さずに返すと、グレンに話を振った。。
「それでグレン、参考になったかしら。」
「いや・・・ならないですって。なあ、オリガ、キャシー。」
「あ、はい。アリス・・・隊長の技は我々には参考にならないかと。」
「はい・・・。」
「レオは参考になった?」
「ていうかハルバートに乗るのって、この間俺がやって見せたやつじゃないですか。元々は侯爵の技だし。」
「あら、バレちゃった。」
「バレバレっすよ。はぁ・・・こう簡単に真似されたんじゃ自信なくすわ。」
 そう言ってレオが「よっこらしょ」と岩の上に起き上がった。
「ソフィア、倒れた時に肘すりむいているだろ、魔法ですぐ治るっつっても一応コレ巻いとけ。」
「ほんとだ。ありがとうレオ君。」