グランボルカ戦記 1 紅と蒼の姫
声と共に突然リュリュの顔の前にハンカチが差し出される。
リュリュが顔を上げると、口をへの字に結んだユリウスが立っていた。
「僕は、君のことが好きではないけど、今の話を聞いて、姉さんと同じくらいつらい目にあってきたんだろうって事くらいは想像がついた。だから、僕も二人に協力したい。」
「ユリウス・・・お主。」
「冗談言わないで頂戴。五人よ。」
「そうだな、五人だな。」
エド達が振り返ると、いつの間にかテラスの入り口にジゼルとアレクシスが立っていた。
「兄様!ジゼル姉様!」
「いいことリュリュ。泣き言を言うのはいいわ。でもね、あたしたちのしようとしていることは、途中で辞めることは許されないの。あんたが泣いて、「もう嫌だ」って言ったって、その頬をひっぱたいてでも、引きずってでも最後まで連れて行くからそのつもりでいなさい。」
「・・・はい!」
「兄様はジゼルと違って、さすがにそこまでするつもりはないから、辛い時は辛いと甘えてもいいからな。」
「あー、アレク。何かそういうのってずるくない?」
「ずるくなんてないよ。僕は今までリュリュに注げなかった愛情をだな・・・。」
「と、いうより前々から思っていたんだけど、アレクシスのリュリュに対する愛情はちょっと異常よね・・・。」
「そ・・・そうかな。歳が離れているからじゃないか?」
アレクシス達のやり取りをみていたユリウスが、エドの横に行って少し小さめの声で、話かけた。
「ね、姉さんも、辛かったら別に僕に甘えてもいいんですからね。」
「いえ、ユリウスさん、わたしはそういうの間に合っているんで。本当に。」
真顔で手を顔の前でパタパタと振るエドの態度と言動にユリウスがショックを受ける。
「ちょ・・・ちょっと姉さん。」
「ぷ・・・あは。あはははは。なんじゃユリウス、お主そういう性格なのか。陰険王子がお姉ちゃんにふられておるわ・・・あははは。」
「き、君のお兄さんだって同じようなものだろ。」
「ふふん、そんなことはないぞ。兄様はお主と違って優しくてかっこいいからのう。リュリュとて、兄様に甘えろと言われて悪い気はせぬ。どこかの陰険な弟とちがってな。」
そう言ってリュリュはアレクシスの腕にしがみつくように両手を絡めた。
「兄様はかっこいいのう。どこぞの弟とは雲泥の差じゃのう。」
「く・・・姉さん!」
「いえ、本当にそういうの大丈夫なんで。」
ユリウスはエドに向かって腕を差し出すが、エドは再び真顔で拒否する。
「大丈夫じゃないです!僕らの絆が向こうに負けているみたいじゃないですか!」
「じゃあ、エドが甘えないんだったらあたしが甘えてもいいかしら。」
そう言いながらジゼルがふざけて、リュリュと同じようにユリウスの腕に自分の両手を絡めて抱きついた。
「え。あ・・・ちょっとジゼルさん。や、やめ・・・あの・・・その。」
「だ、大丈夫?顔真っ赤よ?」
顔を真っ赤にしながらしどろもどろになるユリウスにジゼルはさらに自分の身体を押し付ける。
「や、ほんとうに、その。あの。む・・・胸が。姉さんと違って胸がですね。」
「・・・ユリウス。」
「何ですか姉・・さん・・。」
真っ赤な顔で振り向いたユリウスはエドの表情を見た瞬間真っ青になった。
「私とちがって胸が・・・何?」
「いや、違うんです姉さん!そういうことじゃなくて・・・あ。」
ゴンっという音と強烈な衝撃と共にユリウスの意識は暗転した。
作品名:グランボルカ戦記 1 紅と蒼の姫 作家名:七ケ島 鏡一