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七ケ島 鏡一
七ケ島 鏡一
novelistID. 44756
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グランボルカ戦記 1 紅と蒼の姫

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「ああ。今までは鍵の二人が揃っていなかったから扉は完全に開ききっていなかった。バルタザールもエーデルガルドの行方がつかめていなかったからリュリュに手を出さずに来たんだ。しかし最近、エーデルガルドが叔父上の庇護のもと生きている。そういう噂が流れたんだ。おそらくバルタザールはその噂を聞いて、まずはリュリュを拘束しようとした。それがリュリュがアミサガンを追われた理由だろう。」
「しかし、冥界の門など開いて父上は何をしようとしているのですか。」
「・・・さあな。僕にもその理由はわからないんだ。ただ、十年前のリシエールの夜以降、冥界の門が少し開いているのは間違いがない。リシエール周辺ではコボルトやゴブリンが増えているらしいし、冥吏のリッチなんかも目撃されている。今は旧リシエール国内だけだけど、時間が経てばアミサガンや叔父上のところにも現れるかもしれない。それにもしかしたら二人を使わずに門を開く方法を見つけるかもしれない。そうなる前に手を打つ必要がある。叔父上と僕はそのために秘密裏に準備をしてきていたんだ。・・・もっとも、エドやユリウス王子の話は聞いていなかったから、叔父上は僕のことも信用していなかったのかもしれないけどね。」
「お父様は別に・・・そんな。そういうつもりじゃないのよ。ただ、情報はあまり漏らさないほうがいいだろうって。そういう話で・・・。」
「いや、本気で言っている訳ではないんだ。すまないジゼル。」
 ジゼルが慌てて立ち上がり、フォローを入れるのを見てアレクシスが笑顔で言って手で制する。
「とにかく、一度開戦してしまえばリシエールを落とすまでは帰ってくることができない。そういう話だ。本当は人間同士で潰し合っている場合じゃないんだけどな。」
 そう言ってアレクシスは大きなため息をついた。
「どちらにしてもアミサガンとは戦わないわけにはいかないけど・・・今後も目先の利益につられて伯父様につく者もいるだろうから、この先も人間同士の戦いはあるんでしょうね。」
 ジゼルもアレクシスと同じようにため息をついてうつむいた。
「はいはい。二人共落ち込まない。悩んでいたって解決しないんだからさ。前向きに・・・って、リュリュ様まで何でそんな暗い顔しているんですか。うわ、ユリウスも。」
「すまぬエド・・・いえ、エーデルガルド姫。少し一人にしてもらえぬか。」
 そう言って立ち上がると、リュリュは部屋を出ていった。
「あ・・・ちょっとリュリュ様!」
「・・・僕も少し一人になりたいので、失礼します。」
 そう言うとユリウスも部屋を出ていった。
「アレク!ジゼル!」
 エドの出した大きな声に、アレクシスとジゼルははっとなって顔を上げた。
「二人にはやることがあるだろ。二人は人間同士争わなくていい方法を考えなきゃ。落ち込んでいる暇があるならそれをしなさい!そうしないと、命をかけて戦ってくれる皆に申し訳ないでしょう!」
「エド・・・そうね。うん、ごめん。」
「うん。アレクは?」
「エドの言うとおりだ。辛いのは皆一緒だからな。僕も色々考えてみよう。」
「そう来なくっちゃね。私はリュリュ様とユリウスの所に行くから二人でちゃんと考えておいてよね。」
 そう言い残すと、エドは部屋を飛び出していった。
「・・・一番つらい立場のくせに。まったくあの子は。」
 ジゼルはエドの出ていったドアを見ながら苦笑した。
「・・・変わらないな、エーデルガルド姫は。彼女は最初に出会った時のままだ。ああいう女性だから僕は彼女が好きなんだ。」
「あらアレク。あなたエドが好きなの?」
「ああ、さっき振られちゃったけどね。」
「え・・・?ああ、そう?」
 おかしいなと首を傾げるジゼルを見て、アレクもまた首をかしげた。

「リュリュ様!」
 城のテラスで空を見ているリュリュを見つけたエドは後ろから声をかけた。
 振り返ったリュリュの瞳は夕日に照らされているせいか、泣いていたせいか、普段よりもなお紅い色をしているような気がした。
「エーデルガルド姫か・・・。なんでしょう。」
「今まで通りエドでいいですよ。リュリュ様。」
「じゃったら、リュリュもリュリュでよい。」
 そう言ってリュリュは袖口で涙を拭うと、改めてエドに向かい合った。
「そう?なら、遠慮無くリュリュって呼ばせてもらうね。」
「・・・のうエド。」
「なに?」
「父上は、リュリュがいたから妙な野望を持ってしまったのじゃろうか。リュリュが生まれたから、エドやユリウスの国を攻め滅ぼし、エドたちの両親を殺し、たくさんの人に迷惑をかけてしまったのかのう・・・。」
 言いながら、リュリュはボロボロと大粒の涙を流して泣き出した。
「母さまも、リュリュを生むときに亡くなられた。・・・沢山の人に愛された人だったそうじゃ。それに比べリュリュはどうじゃ。リュリュは人に迷惑かけてばかりじゃ。母さまを殺し、父様を狂わせ、リシエールを滅ぼし、オリガやアリスに迷惑をかけ、そして今、叔父上や兄様。その領民達にまで迷惑をかけようとしておる。リュリュは・・・リュリュは生まれてこないほうが良かったのではないか?リュリュなど・・・居なければ。」
 そう言って俯いて嗚咽を漏らすリュリュを、エドは優しく抱きしめた。
「リュリュ。・・・そんな悲しいこと言わないで。アンがオリガを送ったのはリュリュが可愛いからだよ。愛しているからだよ。オリガだってね、リュリュ様は凄い人だ。尊敬できるって言っていた。ジゼルも、アミサガンでの反乱の時、オリガがリュリュを連れて逃げたって聞いてから、毎日毎日お城から遠眼鏡でリュリュ達が来ないか、誰かに追いかけられていないか見ていたんだよ。それにアリスはね、アレクが自分の部下の中で一番信頼のおける人だからってリュリュの所に送ったんだって。自分が行けない分、アリスにくれぐれもよろしくって、そう言って送り出したんだって。リュリュはこんなに愛されているじゃない。なのに、自分が居なければなんて言わないで。私だって、リュリュが居なければなんて思わない。」
「エド・・・エドぉ・・・」
 リュリュはエドの胸で思い切り声を上げて泣いた。
 城中に聞こえるのではないかというくらい大きな声で泣いた。
 リュリュが少し落ち着いてきた所で、エドはリュリュの頭を撫でながら言った。
「私もアレクもジゼルもアンも・・・みんなみんな、リュリュが居てくれてよかったと思ってるから。」
「ほんとうに・・・?」
「うん。鍵の話だって、リュリュのせいじゃないでしょ。もちろん私のせいでもないと思ってる。たまたまそういう運命だったんだもん。だったら、しかたないじゃない。」
「しかたない・・・?」
「うん。しかたないよ。私たちの中に鍵があるのはしかたがない。だったら、この鍵は開きかけた扉を閉めるために使ってやるんだ。だからリュリュも手伝ってよ。私達を愛して、守ってくれた人達にありがとうって言うために。いらないって言った人たちに、どうだ私達がいてよかっただろうって言ってやるために。・・・ね?」
「うん・・・そうじゃな。そうじゃ!やろうエド。」
「よかった、じゃあ二人で頑張って・・・」
「三人、にしてもらえませんか。」