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七ケ島 鏡一
七ケ島 鏡一
novelistID. 44756
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グランボルカ戦記 1 紅と蒼の姫

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 少し後ろをついてくるエドに向かって肩越しに手招きをして、横を歩くように言ってから騎士が尋ねた。
「君、名前は?」
「あ・・・エドです。」
「フルネームを聞いているんだけどな。」
「えっと・・・エステル・レスピナスです。」
「ふむ・・・エステル・・・ね。私はアレックス・ウラポルカ。市井ではアレックスで通っている。エド、君はここから出た後、どうするんだ。」
「・・・・・・。」
「・・・元いた街に戻って、侯爵と共に戦うか?」
 答えづらそうにして黙りこむエドに、アレックスが尋ねる。
 少しだけ考えた後でエドはその質問に力強く頷いた。
「それは・・・はい。戦います。」
「君は騎士でも兵士でもないだろう。それなのに戻って戦うのか?無理して戦う必要などないだろう。」
「・・・それでも、私には戦う理由があります。」
「一人で背負い過ぎるのはあまり感心しないが・・・。まあ、どうしても戻るというのなら私と一緒に戻ろう。女性の一人旅は危険だし、どうせ私も援軍に出る身だからな。」
「本当ですか!」
「本当だ。・・・ただ、そのかわりと言っては何だが、エド。私と結婚してくれないか。」
「は・・・い?」
 突然のアレックスの申し出に、エドは呆けたような声を出した。
「そうか。結婚してくれるか。」
「いやいやいや!ちょっと待ってくださいアレックス様!な、何をおっしゃっているのかわかりかねます。」
「だが、すぐにでも援軍としていかなければいけないし、帰ってから・・・いや、急いで式をあげるか。」
「待てって言ってるでしょ!・・・なんなの一体。」
 エドの話を聞かずに結婚話を進めようとするアレックスの様子に我慢できなくなったエドが叫ぶ。
「何なの・・・って。結婚の話だろう。」
「私は結婚するなんて言っていないでしょう!なのに、何を勝手に進めているの!」
 エドはそう言って自分の身体を抱き寄せようとするアレックスを突き飛ばして距離をとるが、アレックスはきょとんとした顔をしている。
「さっき、はいって言ったじゃないか。」
「はいっ?って聞き返したんだよ!一緒に連れていってもらうために結婚なんかしなきゃいけないなら、自分一人で帰る!あなたになんか頼らない。私には十年も前から心に決めた人がいるんだから!」
「・・・そうなのか。心に決めた人が・・・全然知らなかった・・・。」
 エドの言葉を聞いたアレックスはがっかりと肩を落とす。
「大体、騎士と平民で結婚なんてできるわけないじゃないですか。」
「それは君が本当に平民ならの話だろう。」
「な・・・あなた一体・・・。」
 アレックスの言葉にエドが警戒感を顕にし、それを見たアレックスがさらに肩を落として、深いため息をついてから続ける。
「君にとって僕は本当にその程度の・・・エド、アレックスをリシエール語で書いて、グランボルカ語で読んでごらん。」
「・・・アレク・・・シス・・・?あなたが、あの鼻たれアレクなの?でも、何で?私は・・・」
「髪と瞳の色が変わっていたってわかるさ。久しぶりだね、エーデルガルド。・・・まさか全く気づいてもらえないとは思わなかったけど。」
 アレクシスはそう言ってやれやれと笑った。
 
 ジゼルとリュリュが兵士にエスコートされて食堂に入ると、既にアレクシスとエドが席についていた。
 エドは既に魔法による変装を解いており、黒髪は本来の髪色である蒼髪へと変わっていた。
「あら、やっぱりバレちゃったの?せっかくこのあたしが三文芝居に付き合ってあげたっていうのに。」
「あはは・・・まさか部屋を出たところでアレクシスにばったり出くわすとは思わなかったよ。」
 ジゼルはエドの姿に、さして驚くこともなく案内された席に座った。
 逆に驚きを隠せなかったのはリュリュだ。
「バレたとはどういうことじゃ?お主、エドなのか?」
「リュリュ。あとでちゃんと話をするから、席につきなさい。後ろに客人がつかえているだろう。」
「・・・・・・。」
 アレクシスに言われてリュリュが振り返ると、シリウスが不機嫌そうに腕を組んで立っていた。
「な・・・お主、シリウスか?」
 エドと同じく蒼い髪になったシリウスに驚いてリュリュが訪ねるが、シリウスは軽く首を振った。
「・・・ユリウスだ。シリウスは仮の名前だよ、リュリュ・テス・グランボルカ姫。」
 食事が一段落ついた所で、アレクシスが口を開く。
「さて。先ほどはカズンが失礼をした。彼に代わってお詫びをする。彼は優秀なんだが、少々融通がきかなくてね。叔父上からの親書の通りに君たちを拘束してしまったんだ。不快な思いをさせてしまって本当に済まなかった。」
 そう言って全員に向かって深々と頭を下げる。
「本当にね。まさかお父様の戯言を真に受けて拘束されるとはおもわなかったわ。で、アレクシス。こうして外に出してもらえたということは、私達も連れていってもらえるのよね。」
「そうなるね。このグランパレスには最低限の戦力だけを残すつもりだから、正直言って君たちをここに置いておくのは不安だ。だから4人も、護衛の2人も叔父上の所へ戻ってもらうことになる。こちらも準備があるから、出立は明後日だ。」
「明後日?早いね。アンの予想だと、早くて一週間と言っていたのに。」
 エドの言葉に、アレクシスは深く頷いた。
「いずれこうなることはわかっていたからね。明日にでも出発できるように準備は済ませてあるんだよ。ただ、この戦いは始まってしまえば長期間戻ることはできなくなるから兵たちにも時間が必要だろう。叔父上達の事が心配だとは思うが、出兵するものに一日だけ時間を与えたいんだ。」
 この別れが周りの人間との最後の別れになる者もいるだろうしね。と、アレクシスは付け加えた。
「・・・兄様。それで、エドとシリ・・・ユリウスのことなのですが。この髪色は・・・。」
「ああ、そうだった。ジゼルは知っていたらしいけど、リュリュは知らなかったんだったね。こちらが、十年前から行方不明のエーデルガルド・プリモ・リシエール王女。そちらがシリウス・プリタ・リシエール王子だ。」
「・・・・・・待ってくだされ。どういうことですか。それに、長期の戦いとはどういうことですか。我がアミサガンは確かに大きな街ですし、兵もたくさんおりますが、叔父上と兄様の軍であればそうそう・・・。」
「リュリュ。順を追って説明しよう。まず十年前のリシエールの夜は知っているね?」
「直接は知りませぬが、話だけは。父様が一晩でリシエールの国を陥落させた戦いですね。」
「ああ。そして、突然このグランパレスからリシエールへ遷都した。それだけでも狂気の沙汰だけど、その戦いの裏って言うのはあまり知られていないんだ。父上・・・いや、バルタザールの目的はリシエール城の地下にある冥界への門を開くこと。そしてその門の鍵が、エーデルガルド、そしてリュリュ。お前だ。」
「な・・・リュリュが鍵ですと?」