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七ケ島 鏡一
七ケ島 鏡一
novelistID. 44756
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グランボルカ戦記 1 紅と蒼の姫

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 道中は何事も無く、予定通り一週間程で一行はリュリュの兄であるアレクシス皇子の治めるグランパレスへと到着した。
「グランパレスに来るのも二年ぶりじゃのう。」
 幌馬車から顔をのぞかせて街並みを見回しながら、感慨深げにリュリュはそうつぶやいた。
「感慨に浸っている暇はないわよ。あたしはさっさとアレクシスに援軍を頼んでとんぼ返りするんだから。そうしないと、開戦に間に合わなくなっちゃうし。」
「いや、多分アンドラーシュ侯爵は開戦に間に合わせたくないから姫を使いに出したんだと思うんですけど。」
 御者をしていたダニエルが至極もっともなことを言うが、そのもっともさが気に食わなかったらしく、ジゼルはダニエルの頭を小突いた。
「そんなことわかってるのよ。だからこそ開戦に間に合うように戻ったらお父様はびっくりするでしょうが!・・・見てなさいよ、お父様め。絶対に開戦までに帰ってやるんだから。」
「つっても、アレクシス軍だって、開戦になんか間に合わないだろ・・・。」
 ダニエルと共に御者をしていたジミーがつぶやくが、ジゼルはジミーの頭も小突いた。
「ふふん、あたしを誰だと思っているのよ。実はこういうものを持ってきているのよ!」
 そう言ってジゼルは荷物の中から小さなお守りを取り出した。
「これは帰還札と言って、一度だけ予め登録した場所に戻れる魔法のお札なのよ。コレがあれば充分に開戦に間に合うわ。まあ一つしかないからあたしともう一人くらいしか帰れないけど。誰にしようかしら。エドがいいかしら、ソフィアがいいかしら。まあ、レオでもいいけど。」
「へぇ、すごいねえ。・・・・見せて見せて。」
 そう言ってソフィアがジゼルから帰還札を受け取ってマジマジと見る。
「こんなので、あの距離を帰れるんだねー。すごいねー。」
 そう言って裏返してみたり、太陽に透かしてみたりしていたソフィアが、お守りに一部剥がれかけている部分があるのを見つけた。
「ん・・・?ここを・・・剥がすの?」
 注意書きに従って剥がし始めるソフィアに気がついて、レオが慌てて止めに入るが、時既に遅し。
 次の瞬間にはソフィア共々レオの姿もその場から消えていた。
「え・・・?えええええええええええっ!」
 一瞬の間を開けて、現状を理解したジゼルが頭を抱えて、およそ身分のある女性とは思えないような叫び声を上げた。
「ちょ・・・え?どういうことよ!」
 ダニエルの肩を掴んでがくがくと前後に揺すりながらジゼルが半狂乱になって叫ぶ。
「どういうも何も・・・ソフィアがあのアイテムを使っちゃったみたいですね。」
「あれ、一個しかないのよ!ど、どうすんのよ!」
「ま、まあまあジゼル。お札で戻れなくても、アレクシス軍と一緒に行けばいいじゃない。開戦には間に合わないだろうけど、一応戦いには間に合うだろうし。ピンチの所に現れるっていうのも。それはそれでおいしいっていうか。」
 そう言いながらエドがジゼルとダニエルの間に割って入ってジゼルをなだめ出す。
「く・・・まあ、無くなったアイテムのことを言っていてもしかたないし、そういうことで手を打ちましょうか。さっさとこの親書をアレクシスに叩きつけて早急に援軍を出してもらいましょう。」
「そうそう、それがいいって。そうしなよ。」
 
「で、なんでこうなるのよ!」
 軟禁されたスイートルームで、ジゼルが叫ぶ。
 城について早々、ジゼル達一行は、アンドラーシュからの親書を読んだ宰相のカズンに拘束され、男女別々の部屋へと軟禁された。
 親書を読んだ後で、カズンの態度が急変した所を見ると、おそらくはアンドラーシュが親書にジゼル達を拘束するように書いておいたのだろう。
「あはは・・・まさか侯爵が皇子にこんなことを頼むなんてね。」
 ジゼルと同じ部屋に軟禁されたエドは笑いながらソファーに座ると、テーブルの上に置かれたフルーツに手を伸ばした。
「そもそも、じゃ。何故リュリュまで軟禁されねばならぬのじゃ。・・・エド、リュリュはリンゴが食べたいぞ。」
「はいはい。今剥きますね。」
「『剥きますね。』じゃないでしょう!早く抜け出さないと本当に間に合わなくなっちゃうでしょう。」
「間に合わないなら間に合わないでいいんじゃないかな。戦場になんか出たら危ないし。」
 そう言い放ったエドとジゼルの視線が、バチっと音を立てて交わった。
「あんた・・・本気で言ってるの?」
「・・・うん。本気だよ。私はジゼルにもリュリュ様にも戦場になんか出て欲しくないと思っている。」
「・・・・・・。」
 ジゼルは無言で眉をしかめてエドを睨む。エドは睨み返しこそしないものの、真顔で面白くなさそうにその視線を受け止める。
「や、やめるのじゃ、二人共。こんな所で仲間割れなどしている場合ではないじゃろう。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
 リュリュが止めに入るが、二人は互いに顔を背けて黙り込んだ。
 黙りこむ二人の間でリュリュがオロオロしていると、ジゼルが先に沈黙を破った。 
「・・・あんた、実はお父様とグルなんじゃないの?だからそんなに落ち着いているんでしょう。」
「バカなこと言わないで。そんなことよりジゼルはもう少し侯爵の気持ちを考えてあげるべきなんじゃないの。なにあのマジックアイテム。」
「だったら、あたしの気持ちはどうなるのよ!お父様があたしのことを心配なさるように、あたしだってお父様が心配なのよ!」
「ジゼルって本当にいつも自分のことばっかり。あー・・・もう、本当に今度という今度は愛想が尽きた。私、別の部屋にしてもらうわ。ここならお城のメイドがいるし、自分の事がなんにもできないジゼルだって、私が居なくても不自由しないでしょ。」
「な・・・なんにもできないですって?」
「すみませんリュリュ様。そういうわけで、私は部屋を変えてもらいますので。・・・このバカの事、お願いしますね。」
「ば・・・バカってどういうことよバカって!ちょっと待ちなさいよエド!」
 ジゼルの声を背中で聞きながら、エドはさっさと部屋を出て扉を閉めると、部屋の前に立っていた見張りの兵士に話しかけた。
「あの、私もうジゼル様のメイドやめるので、外に出たいんですけど。」
「え・・・ですが・・・。」
 中のやり取りをこっそり聞いていたらしい兵士が、ダメと言うのも可哀相かと考えを巡らせているところに、身なりのいい若い騎士が現れた。
「どうした?何か問題か?」
「あ・・・このメイドがジゼル様と喧嘩をしまして・・・それでその、ジゼル様のメイドを辞めるから外に出たいと。」
「喧嘩?このお嬢さんが?・・・はっはっは。うん、いいんじゃないか。外に出してあげても。」
「し、しかし・・・カズン様は全員を閉じ込めておけと。」
「責任は私が持つよ。君はここを離れられないだろうし、この子を戻すのも可哀相だろう。主人と喧嘩をしたんだ。下手をしたら殺されてしまうかもしれないじゃないか。」
「・・・それでしたら。」
 騎士の言葉を聞いて少し考えた後、兵士はエドを騎士に引き渡した。
「ついて来なさい。私が外までエスコートしよう。」
「あ、はい。ありがとうございます」
 歩き出す騎士の後をついてエドも一緒に歩き出す。