小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
七ケ島 鏡一
七ケ島 鏡一
novelistID. 44756
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

グランボルカ戦記 1 紅と蒼の姫

INDEX|17ページ/33ページ|

次のページ前のページ
 

 エーデルガルドをシーツの中に隠すと、アンジェリカはテントの入口へ出て伝令の兵士の前に顔を出した。
「どうした。」
「は・・・フィオリッロ男爵より危急の伝令ということで、使者の方が・・・。」
 伝令の兵士が報告をしようと口を開いた瞬間、兵士の首元に抜き身の剣が押し当てられた。
「使者の方、じゃないでしょう。今後君たちの上司になるんだから、あんまり無礼な口を聞くと、殺しちゃうよ。」
 そう言って暗がりから20代前半の、目の細い若い騎士が現れる。
「エリヤス男爵・・・。」
「やあ、アンジェリカ。久し振りだね。2年ぶりかな。」
 そう言ってエリヤスは軽薄そうな笑顔でひらひらとアンジェリカに手を振った。
「・・・どうして、エリヤス殿がここに?」
「やだなあ、わかるでしょう。モタモタしていて、やる気のない貴女に代わって僕がこの軍の指揮を執るんですよ。」
「し、しかし、わたしは何も聞いておりませんが。」
「そのための伝令でしょう。伝令君。彼女に伝令書を。」
「・・・アンジェリカ様。」
 伝令が懐から手紙を取り出してアンジェリカに渡し、手紙を受け取ったアンジェリカはすぐさま腰の短剣で封を切ると、中の手紙に目を通した。
「・・・・・・了解しました。以降私はエリヤス殿の指揮下に入ります。それで、引継ぎなのですが・・・。」
「そんなのいりませんよ。既に僕の部下が諜報活動をしています。・・・領境を超えてね。」
「な・・・それは・・・。」
「まさか、協定違反だとか、まだ開戦もしていないのに。なんて言わないですよね。戦争なんて、裏のかきあいでしょう。だったら、かかれる前に裏をかかないと。それともあなたはまさか、戦いたくないなんて言うんじゃないでしょうね。」
 細い目を更に細めて嫌な笑いを浮かべながらエリヤスがアンジェリカに尋ねた。
「・・・いや、貴殿の言うとおりだ。私が甘かった。・・・すぐにこのテントを明け渡したほうが良いか?」
「いえいえ。テントはちゃんと持参しておりますので、このまま使っていただいて結構ですよ。どうやらお楽しみの最中だったようですし、僕は今晩の所はこの辺で失礼しましょう。」
 テーブルの上のグラスとベッドのシーツのふくらみを一瞥して下品な笑いを浮かべると、エリヤスは伝令を伴って踵を返して森の奥へと消えていった。
 二人が完全に森の奥へ消えるのを確認すると、アンジェリカはベッドへと腰掛けて小さな声で囁くように言った。
「・・・行ったぞ。」
「ありがと。」
 エーデルガルドがもぞもぞとシーツの隙間から顔を出して礼を言う。
「しかし、どうしたものか。おそらく既に奴の手のものが、この辺りの警戒に当たっているだろうし、万が一君がこのテントから出ていくのを見られでもしたら、後々面倒なことになる。」
「ああ、それなら大丈夫よ。変装をとけばいいだけだし。」
 あっけらかんと言い放つエーデルガルドの言葉に特に驚くこともなく、アンジェリカが笑う。
「やはり、君はエーデルガルドではなかったんだな。」
「まあ・・・ね。あんたはいい奴だから早めに打ち明けようと思っていたんだけど、ちょっとタイミングを失っちゃって。・・・それに、あたしあんたの事結構好きだから、嫌われたくなかったからさ。」
「わたしが君を嫌う?そんなことあるわけがないだろう。」
「いいや、嫌うよ。あたしデミヒューマンだからさ。」
 そう言って、エーデルガルドはあっという間に、頭のてっぺんから猫のような耳の生えた女性へと姿を変えた。
「・・・嫌いだろ、こういうの。」
「森の偵察者、ケット・シーか・・・なるほど、兵士たちが捉えられないわけだ。」
 そう言って、アンジェリカは可笑しそうに笑った。
「だが、それがどうした。」
「え・・・?」
「それと、わたしが君を嫌うということの関連性がよく見えないのだが。」
「だ、だって・・・帝国貴族は・・・デミヒューマンのこと、嫌うじゃない。」
「そういう奴も確かにいるな。私も、人を襲って盗みを働くゴブリンやコボルトの類は嫌いだしな。だが、ケット・シーやエルフを嫌う理由はないぞ。それに、君だったら、ゴブリンやコボルトだったとしても、一向に構わんよ。」
 そう言って笑うアンジェリカに、彼女はやれやれと諦めたようなため息をついた。
「そんなこと言われたら、あんたと戦いづらくなっちゃうじゃない。」
「私も君とは戦いたくないな。・・・そうだ、君の本当の名前教えてもらえるか?」
「・・・メイよ。」
「わたしは、アンジェリカ・フィオリッロ。親しいものはアンジェと呼ぶ。」
「そう・・・じゃあ、アンジェ。あたし行くね。」
「ああ。アンドラーシュ侯爵にくれぐれもリュリュ様を頼むと伝えてくれ。・・・おそらくエリヤスは難癖をつけて開戦を早めようとするだろうから、その警告もつけてな。」
「・・・ほんと、変わり者だよね。アンジェって。」
「お互い様だ。」
 そうしてもう一度笑いあった後、メイは黒猫に姿を変えると、どこかへと走り去った。