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七ケ島 鏡一
七ケ島 鏡一
novelistID. 44756
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グランボルカ戦記 1 紅と蒼の姫

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 カラカラカラと馬車の車輪が廻っている。
 強い力でなぎ倒された馬はもう動かず。
 大好きな父には顔がなく。
 私たちを育んでくれた母の腹は空洞になってしまった。
 いつもよく遊んでくれた、曲芸師の兄さんはもうナイフを投げることはできず。
 あこがれだった姉さんはもう舞を舞うことはない。
 こんなはずではなかった。
 いつものように皆で次の街に到着し、父さんの演奏で姉さんが舞い、兄さんの曲芸でお客さんが沸く。
 わたしは父さんに習った、まだまだ未熟な演奏を披露し、妹もそれに合わせて舞う。
 そんな変わらない毎日が明日も明後日もその次も続くはずだった。
 しかし、それは、そんな普通でかけがえのない大切な日常は、たった一頭の大きな熊によって打ち砕かれた。
 突然現れたその熊は、私たちの馬車をなぎ倒し、襲いかかってきた。
 そして、わたしと妹を守ろうとして、父も母も兄も姉も殺された。
 もうだめだ。
 もう私たちを守ってくれる人は居ない。
 こんなにひどい世界に居たくない。
 父さんや母さんや兄さんや姉さんのいるところに行きたい。
 そんなわたしの気持ちを察してか、熊がこちらに近づいてくる。
 一歩。
 また、一歩。
 熊が近づいてくる。
 そして、わたしと妹の前で、熊は動きを止め、前足を振り上げた。
(殺される・・・!)
 そう思って目を閉じるが、何時まで経っても衝撃は襲ってこない。
 おそるおそる目を開けると、
 熊は、立派な服を着た男の人とがっぷり四つに組んでいた。
「・・・誰・・・。」
 あまりの光景にわたしはそんな事を口走るのが精一杯だった。
「おお、生きておったか。よかったよかった。・・・待っておれ、儂が今この熊を打ち倒すからのう。」
 そう言ってニカっと笑うと、あろうことかその男の人は熊を上手投げで放り投げた。
 放り投げられた熊は一瞬何が起こったのか理解できず、キョロキョロとしていたが、やがて大急ぎで森の奥に逃げていった。
「二人とも無事かね。」
 熊が完全に姿を消したのを確認して、男の人が私たちの側へやってきて聞いた。
 わたしは目の前で起こったどこかの国のお伽話のような展開を整理しきれず、頷くのが精一杯だった。
「ひどい目にあったのう・・・。」
 その男の人は辺りを見回すと、座り込んでわたしと妹を抱きしめた。
「すまなんだ。ワシがもっと早く駆けつけておれば・・・」
 そう言って男の人は我が事のように涙を流して泣き始めた。
 その涙につられるように、わたしと妹の瞳にも、思い出したように涙が溢れてきた。
「陛下!探しましたよ!勝手に先行なさらないで下さい。」
 しばらく三人で泣いていると、今度は少し若い男の人がやって来た。
「すまぬアン。つい、な。今回の討伐対象に、この娘たちの一行が襲われていたのだ。」
「つい、ではありません。はぁ・・・問題の熊は、今しがた私が仕留めましたので、もう引き上げましょう。そろそろ雨も降ってきそうな空模様ですし。」
「そうか。・・・君たちの家族の仇はこのお兄さんがとったそうだ。とは言え、そんなことで君たちの気は収まらないだろうが・・・」
 陛下と呼ばれた男の人がそう言って悲しそうな表情を浮かべて肩を落とした。
「それは、陛下が気になさることではありません。」
「そ・・・そうだよ。おじさんはわたしたちを助けてくれたもの。」
「お・・・おじさん?」
「うん。おじさんのおかげ。ねえ、クロエ。」
 引っ込み思案の妹は声を出さずに頷くだけだが、気持ちは一緒だ。
 おじさんのせいじゃない。おじさんが自分を攻めるのは違う。
「そうか・・・おじさんか。はっはっは。」
「おい娘!こちらをどなたと心得・・・」
「よいよい。二人とも、おじさんに名前を教えてくれんか?」
「アリス。」
「・・・クロエ。」
「そうか、アリスにクロエか。辛いだろうが二人の家族にお墓を作ってあげよう。もうすぐ雨もふりそうだし、みんなが寒くないようにな。」
 わたしはおじさんの言葉で、思い出す。
 そうだ、皆死んでしまったんだ。
 もう笑いかけてくれることも
 おはなしすることも
 頭をなでてもらうこともできない。
 そう思うと、再び涙が溢れてきた。
「アン、すまぬが、戻ってエリザベスを連れてきてくれ。それと、何人か若い兵士とスコップを。」
「・・・は。かしこまりました。」
 しばらくしてやってきたおばさんに私たちを預け、おじさんは周りの人が止めるのも聞かず、雨の中、立派な服を泥だらけにしながらみんなのお墓を掘ってくれた。
 おばさんと妹と三人でつくった小さな花の輪を皆のお墓にかけて手を合わせる。
 しばらくそうしていると、おじさんが、私と妹を抱き上げて言った。
「アリス、クロエ。おじさんと一緒にきなさい。」
「いいの?」
「ああ。おじさんには二人と同じくらいの歳の子が居るんだけど、あまり友達がいないんだ。よかったら友達になってやってくれないか?」
「うん。いいよ。クロエもいいよね?」
「・・・・・・うん。」
「そうか。よし。じゃあ行こうか。」
 そういっておじさんは、また白い歯を見せて笑い、その笑顔に私は安らぎを覚えた。
今思えば、皇帝陛下をおじさん呼ばわりなど、その場でアンに叩き斬られても文句は言えないのだが。
 子供というのは恐ろしい。