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七ケ島 鏡一
七ケ島 鏡一
novelistID. 44756
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グランボルカ戦記 1 紅と蒼の姫

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 デールに本当の事を打ち明けることができて、彼が「そんな道を進まなくていい。」そう言ってくれたら。
 アンジェリカは、そんな夢のような「もしも」を望まずにはいられなかった。




 次の日、ジゼルはリュリュとエドを連れて城のエントランスへと現れた。
 エントランスで待っていたのは、エドの弟であるシリウスと兵士のジミーとダニエル。そしてレオとソフィアだった。
「待たせたわね。」
「全然だよー。」
 幌馬車に荷物の積み込みをしながらソフィアが笑顔で答える。
「でもわたしなんかがお供でいいのかな。昨日だってアリスちゃんを怒らせちゃったのに。」
「ま、ソフィアとエドは妥当だろ。ジゼルはこういう旅に連れていけるような気の置けない友達はほとんどいないしな。それより俺が入っていることの方が大問題だよ。昨日の今日でもう出発ってどういうことだよ。親子揃って人使い荒ぇなぁ・・・。」
 レオが小さな声で愚痴をこぼしたのをジゼルは聞き逃さなかった。
「レオ。あなた、そんなに休みたいなら。少しお給料を減らすようにお父様に言ったほうがいい?それならゆっくり休んでいてくれてもいいんだけど。」
「げ・・・地獄耳。」
「なんですって?」
「なんでもありませーん。空耳じゃないっすかー。」
「ソフィア!あなた自分の恋人にどういう教育しているの!」
「え?ええええっ!そんな、レオ君は恋人なんかじゃないんだよ!」
「おだまり!腐れ縁とかただの幼なじみとか、そういう建前はいいのよ!ちゃんと教育なさい!」
「うわぁぁん、そんなことできないよー。」
 ジゼルが八つ当たり気味にソフィアの肩を掴んでがくがくと揺するのを横目で見ながら、ダニエルが苦笑する。
「・・・レオ、君って本当に怖いもの知らずっていうか・・・なんていうか。」
「ま、正直言って、ジゼルくらいなら、めんどくさいってのはあっても、怖くはないな。」
「わたしは怖いんだからジゼルちゃんを炊きつけないでよー・・・・」
 眉毛と口をへの字にして、ソフィアが得意げにしているレオに抗議する。
「こ、怖いってどういうことよ!ソフィア!あんた前にあたしのこと友達だって、姉妹見たいに思っているって言ったじゃない!」
「うわーん・・・こわいよー。助けてエド、レオくーん。」
「はいはい。三人ともそこまで。早く出発するよ。」
 そう言って普段のメイド服ではなく、動きやすい、どちらかと言えば男性のような格好をしたエドが手荷物を幌馬車に放り込んで、乗り込みながら笑う。
「ちょ、ちょっと待てエドよ。」
「うん?何ですかリュリュ様。」
 リュリュに呼び止められて、エドが片足を馬車にかけた姿勢のままで振り返った。
「なぜこやつが一緒におるのだ。」
「こやつっていうのは、シリウスのことですか?」
「そうじゃ。お主や、そっちのメイドは良い。兵士たちは護衛だとしてもだ、なぜ一介の司書が同行するのだ。」
「・・・それはね、リュリュ。」
 リュリュの肩に手を乗せて、少し自虐的な笑みを浮かべてジゼルが口を開く。
「今回の旅は、行程を急ぐからほとんど野宿や馬車中泊なのよ。」
「それがなんなのですか、ジゼル姉様。」
「それに今、城の皆は立て込んでいてね。」
「だから、それがなんなのですか、姉様。」
 きちんと答えてくれないジゼルに対して少しのいらだちを含んだ口調でリュリュが再び尋ねる。
「・・・手が開いていて同行できて、野外でまともな料理を作れる人間が、シリウスしかいないの。」
「え・・・」
 三人も妙齢の女性が居て?という視線で、リュリュが回りを見るが、エドもソフィアもリュリュと目を合わせないようにして顔を背ける。
 最後にリュリュが振り返ってジゼルを見ると、ジゼルだけはきちんとリュリュの目を見た。しかし、その顔は怒っているのか照れているのか、真っ赤だった。
「あ、あたしはいいのよ。料理なんかできなくても困らないもの。そういう立場だもの。そうよ、あれよ。ノ・・・ノブレス・オブリージュよ!」
「姉様・・・それは違いますのじゃ。」
「それは違うと思うよ、ジゼル」
「わ、わたしも違うと思うなー・・・」
「う、うるさい!アンタたちも料理できないんだから余計なこと言わなくていいのよ!」
 地団駄を踏みながら、ジゼルがエドとソフィア、さらには年端も行かないリュリュまで指さしながら叫ぶ。
「わたしは設備があればそれなりにできるけど・・・。」
「うるさい!とにかく出発よ、出発!メンバーの変更とか認めないから!いいわね!」
 ジゼルはソフィアの言葉を遮って叫ぶと、さっさと馬車に乗りこんだ。
 
 アンドラーシュが執務室から窓の外を見ていると、丁度ジゼル一行が城門を出ていくのが見えた。
 その様子を見てアンドラーシュは一人、ホッと胸をなでおろした。
「ジゼル達が行ったな。」
「ええ・・・行ったわ。」
「まったく、親バカだな、お前は。」
 そう言って、アンドラーシュと並んで立ってヘクトールが笑う。
「あんただって、エド達が一緒に行ってほっとしているんでしょ。お互い様じゃない。」 口を尖らせてアンドラーシュが抗議すると、ヘクトールは「確かに。」と少し笑った。 ヘクトールの母国であるリシエールが滅亡してからの十年。親戚や、元々国を越えての友人であったアンドラーシュのところに身を寄せながら面倒を見てきたエドとシリウスは、ヘクトールにとって実の子どものような存在と言っても過言ではない存在だ。その姉弟が、やがて戦場となるこの街を離れることができた。それがほっとしないわけはない。
「まあ、あの子達のことはアレクシスに任せるとして、アタシ達はあの子達が戻ってくる場所を残しておくためにがんばらないとね。」
 そう言って窓際を離れると、アンドラーシュは応接セットのソファーへと腰を下ろし、ヘクトールもアンドラーシュの隣に座った。
「さてと、待たせたわね。じゃあ作戦会議と行きましょうか。」
「見えなくなるまで見送っていてもいいのですよ。アンドラーシュ侯爵。」
「さすがにそこまで親バカじゃないし、あの子達の実力も知っているからね、そこまで心配してはいないのよ。」
「あら、冷たいお父様ですね。」
 そう言って、応接セットに座った彼女・・・アリスはコロコロと鈴がなるような笑い声を上げた。
「そうかもね。まあ、それはそれとして、貴女にお願いしたいことがあるのよ。」
「いいですよ。やりましょう。」
 そう言いながら、アリスは紅茶を一口飲んで、テーブルの上に戻した。
 彼女の格好は昨日までの旅芸人風の格好ではなく、グランボルカ帝国軍の将官クラスの軍服に変わっていた。
「内容も聞かずに?」
「聞くまでもないでしょう。わたしにできることは限られていますし、今は開戦前。そんな時に頼まれることは一つですよ。」
「ま、頭のいい貴女ならそう言うわよね。じゃあ、お願いねアリス。いえ、アリス・シュバルツ将軍。」
「現在のような状況は、アレクシスが予想した幾つかのシナリオの中にありましたからね。・・・まあ、わりと最悪寄りのシナリオの中ですが。」
「ちなみに、最悪のシナリオっていうのはどういうのかしら。」