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七ケ島 鏡一
七ケ島 鏡一
novelistID. 44756
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グランボルカ戦記 1 紅と蒼の姫

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「私は、この街の守備を預かる身。父上は、私もリュリュと同様に戦場から遠ざけようとしていらっしゃるのでしょうが、そういったお気遣いは無用です。たとえアレクシスの援軍が間に合わず、死ぬことになろうとも、私はこの街が危険に晒されているときにここを離れるようなことはいたしません。誰か他の者に行かせて下さい。」
「しかし、ジゼル様。アンドラーシュ様の親心という物も・・・。」
「そう言うのであれば親は娘の心を理解するべきです。そうでしょうヴィクトル。きっとあなたの娘のシェリルもそう言うと思うわよ。あなたは、シェリルが行くなと言ったら戦場にでないの?違うでしょう?」
「・・・・・・。」
 ジゼルを説得しようとしたものの、ジゼルに愛娘の名前を出されたヴィクトルは苦い顔をして言葉を引っ込め、何とかしてくれと言った視線をヘクトールに送った。
「アンのことが心配だという、ジゼルの気持ちはよく分かるが、お前が居たからと言って、戦況が劇的にかわるわけではない。それはわかるな、ジゼル。それにお前が増援を連れてきてくれれば、それだけアンや街の人達が無事ですむ確率が上がる。」
「でもヘクトール・・・。」
「そう心配そうな顔をするな。我々が負けなければ良いのだろう。アン、我々傭兵隊で外門を守備しよう。傭兵隊には外門に設置されているバリスタの扱いに長けた者もいるからな。ヴィクトル殿の騎士団は内門と市街地の守備をお願いいたします。」
「いや、待たれよヘクトール殿。一番槍を傭兵部隊に持っていかれたのでは、配下の者に叱られてしまう。その役目は我々騎士団が。アンドラーシュ様。何卒我々に外門をお預け下さい。」
「そうねぇ・・・外門はヘクトールたちにお願いしようかしらね。」
「アンドラーシュ様!我々では頼りないということですか。」
「勘違いしないでヴィクトル。外門はすぐに放棄するつもりだからね。ヘクトール。外門の仕掛けやバリスタを使ったらすぐに撤退、全員無事に内門まで戻ってくること。OK?」
「了解だ。」
「ヴィクトル。あなた達の出番はヘクトール達が撤退し終わってからよ。前のめりになっている敵軍の柔らかい脇腹を精鋭部隊でつついてすぐに城門まで撤退すること。その役目には騎馬の機動力が不可欠よ。それで敵は一旦撤退するはず。一日目はそこまで出来れば上等よ。もし敵が外門の外まで下がれば外門を。下がらなければ全員を収容した後、内門を締めるわ。あまり綺麗な戦法ではないけれど、戦法をどうこう言っている余裕もないからね。そもそも内戦で名誉もへったくれもないんだから、騎士たちにも我慢するように言って頂戴。」
「・・・了解致しました。」
 ヴィクトルは完全には納得していないような表情で渋々頷いた。
「お父様。私はどうしたらよろしいでしょうか。」
 アンドラーシュはジゼルに冷ややかな視線を送って一つため息を着く。
「さっきも言ったでしょう。あんたは、アレクシスの所へ行きなさい。あなたの部隊は別の人間に使わせるから。」
「・・・・・・嫌です。」
「嫌でも行きなさい。これは父親ではなく、領主としての命令よ。ジゼル、貴女はリュリュ皇女を守ってグランパレスへ救援の要請へ行くこと。いいわね。」
「お父様!」
「以上。今日の会議は終了よ。」
 アンドラーシュはそう言って立ち上がると、ジゼルのほうを向くこともなく部屋を出ていった。



 リュリュ皇女領とアンドラーシュ領の領境の森の中にひっそりと張られた陣のテントの中で、アミサガン軍総大将のアンジェリカは椅子に座ったまま腕組みをしてまんじりともせずに座っていた。
 ここ二、三日、この森に陣を張ってからはずっとこんな調子で、彼女はまともに眠っていなかった。
 眠っていないと言うよりは夢を見るのが恐ろしくて眠れないと言うのが本当の所ではあったが。
「アンジェリカ様。起きていらっしゃいますか。ジャイルズです。先ほど到着致しました。」
「・・・・ジャイルズ卿?」
 アンジェリカはテントの外から掛けられた声に立ち上がり、テントの入り口の幕を上げて訪問者に応対した。。
「開戦までにはまだ2週間もありますのに夜駆けまでされずとも・・・。」
「通信兵から、ここのところアンジェリカ様が、夜あまりお休みになっていないと聞いたものですから。心配で私だけ単騎で参りました。はっはっは、指揮官失格ですな。・・・入ってもよろしいですか。」
「・・・どうぞ。」
 テントの中に入ってきたのは、アンジェリカと同じく、20代半ば位の、がっちりとした体格の、顔に傷のある青年騎士だった。
「やはり、無理をしていますね。」
「む、無理など・・・していません。」
 そう言ってアンジェリカは強がるが、その疲れは如実に顔に出ていた。顔色は悪く、眼の下にはくまもできている。
「リュリュ様がご心配なのはわかりますが、ご自愛下さい。もし貴女に何かあっては、このデール・ジャイルズ、悔やんでも悔やみきれません。・・・なんてな。」
「デール・・・。」
 デールの砕けた口調のせいか、テントの中に二人しかいないせいか 、アンジェリカの口調と物腰が総大将としてのそれではなく、デールの婚約者としてのそれに変わる。
「アンジェリカ。アンドラーシュとオリガの卑怯な罠に気が付けなかったのは君だけじゃないんだ。気に病むことはないよ。なに、私が来た以上は、大船に乗ったつもりで居てくれ。リュリュ様をお救いし、必ずやアミサガンに連れ戻してみせるからな。」
 デールはそう言って胸を叩いて笑った。
 その笑顔を、アンジェリカは正面から見ることが出来ずに顔を伏せる。
 デールは、リュリュが出奔した真相を知らない。
 彼が真相を知ったら、どう思うのだろうか。
 主人に弓を引いたのがアンジェリカで、本当の意味で守ろうとしていたのがオリガの方だと知ったら、どう思うのだろうか。
「どうした?浮かない顔をして。大丈夫だ。私がなんとかしてみせる。君は全軍の指揮に集中してくれればいい。」
 アンジェリカがやましくて顔を逸したのを、不安そうにしていると勘違いしたのだろう、デールはアンジェリカの肩を掴んで顔を覗き込むようにして笑いかけた。
 アンジェリカは、今まで彼のこの人懐っこい笑顔に何度救われたかわからない。しかし、今回だけはこの笑顔はアンジェリカの救いにはならなかった。
「デールは・・・わたしが間違ったことをしていたらどう思う?」
「君が間違ったことをすること自体がなさそうな気がするが・・・君の決定に従うよ。私は君の部下だからね。」
「叱って、正しい道に戻そうとはしてくれないの?」
 アンジェリカがすがるような表情でそう訊ね、その表情を見たデールは少し困ったような表情を浮かべた。
「君はとても聡明な人だ。もし、君が間違った決定をしたのだったら、きっと君の前にはその間違った道しかなかったのだろう。だったら、私は君と一緒に間違った道を歩くさ。地獄の底までね。」
「デール・・・。」
 彼の言うとおり、今のアンジェリカには選択肢などない状態なのだ。
 彼女の前にある道は、父の命に従い、妹のように思ってきたリュリュ皇女を皇帝バルタザールに差し出す。この道しかないのだ。
 ただ
 もしも