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未花月はるかぜ
未花月はるかぜ
novelistID. 43462
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After Tragedy4~志~

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今朝夢で見たシー兄ちゃんの姿が頭を過る。血まみれになり、ぐったりしている姿。シー兄ちゃんと同じ風に死ねるのならば、いいのかも知れない。僕は結局あの日から何も進展していない。あの日、僕がそもそもシー兄ちゃんから離れて行かなければ、シー兄ちゃんは、苦しい思いをして死なずに済んだ。僕が殺したのも同然だ。それなのに、名誉を守ることも出来ない。レーニスに貰った知識も役に立たせることができず、2人が亡くなった場所で、好きな女の子すら幸せにできず、逃げ込んでいる自分…。

生きているのが図々しいことなのかも知れない。それでも、どうしてもこれだけは譲れなかった。
「シー兄ちゃんがどんな人だったか、あなたは知っているんですか!?」
僕はキロを見詰めた。キロは少し動揺したようだった。
「世の中から隔離されて、檻の中の生活が長くって、無知で、すごく苦労してた。文字は書くことはおろか、読むこともできない。遺書だって書けるはずがないんだ。」
「ふーん。」
キロはつまらなさそうな顔をした
「それで?それで、ちんたら研究しているわけだ。」

頭に血が上るのを感じた。

「僕の何を知っているんですか!?僕がどれくらいあの二人を好きだったか知っているんですか?」
僕は十数年間言えなかった言葉を吐き出した。
「あんなに優しくて温かい人が殺しなんかやるはずがない!みんな何を見ていたんだ!証明なんて本当はいらないんだ!」
僕は言った。いっそ、ここで殺されるなら、もう思いの丈をぶつけてから死んでやろうと思った。
「レーニスが騙されて殺された!?レーニスが人を見る目がないと本当に思ってるのか?あの人だから、レーニスは心を開いたんじゃないか!?」
涙がとめどなく溢れた。
なんで、こんなに成果をだせないんだ。
悔しい…。
悔しいしか出てこない…。
このまま死ぬなら本当にやるせない。

その時だった、キロが僕の視界から消えた。
キュオネがキロを後ろから引き離そうと引っ張ったのだ。
「何やっているの!?キュオネ!!」
キロが次に叫んだ瞬間、僕の腰の辺りに柔らかい感触がして、僕の身体はバランスを崩して倒れ込んだ。
癖のある細い髪の毛が僕の顔をかさった。懐かしい体温と匂いがする。
キュオネが僕を横に押し倒し、キロから僕を庇っていた。咄嗟に彼女は僕を庇うためには自分が盾になるしかないと考えたようだった。
「お母さん、止めてよ…怖いよ…。」
キュオネはポロポロ泣いた。
「キュオネ…。」
キロの落ち着いた静かな声が聞こえる。
どうやら、僕は命拾いをしたらしい。
キロは立ち尽くし、次の手を打ってこない。
落ち着いたかと安心した瞬間、キロがキュオネを僕から引き離した。
何かが強く蹴られる音がした。
僕は目を瞑った。自分が蹴られたのかと思った。
でも、来るはずの痛みが来ない。
目を開けるとキュオネが蹴られて丸まっていた。
「え…。」
僕は目の前で何が起きているのか理解出来なかった。
「キュオネ、あんた何をやっているの!? 死にたいの!?」
キロは、怒っていた。かなり強く蹴られたらしく、キュオネはなかなか起き上がろうとしない。
「私はいつも教えていたと思うけど、命に関わることだけは絶対にするなって!!」
倒れたキュオネの胸倉を掴み、まだ足りないといった様子でキュオネを揺さぶり怒鳴りつけてる。
「ごめんね…でも…。ユクス、助けなくちゃいけないって思ったの…。」
キュオネは、涙を貯めて言った。キュオネは、会って間もない僕のことを守ろうと身体を張ってくれていた。華奢な方が上下に揺れて、キュオネはしゃがみ込んで泣いた。
「あたしを悪者にするのは辞めてくれる?キュオネが、このあんちゃんに気軽に自分の出生を話さなければ、こんな事をする必要はなかった。分かる?」
キロは、キュオネを立たせると肩を掴んだ。
「ごめんなさい。」
キュオネは、一生懸命泣くのをこらえようと頑張っているようだった。
「すみません…。」
僕は思わず謝って、キュオネに近付こうとした。
すると、キロは溜息をつき、そんなキュオネを抱き締めた。
「頼むから、心配かけさせるな。」
キュオネは頷いているように見えた。
それを確認したからか、キロがこっちを振り返った。僕の身体は流石に恐怖を植え付けられたのか震えている。
「はあ…。デメテルの指示でただ試しただけなのに…どいつもこいつも…。」
キロは不機嫌そうに僕を見た。
「…。」
試したんだ…。そりゃ、幼少期の僕をいくらデメテルが知っていたとしても今の僕をレーニスの娘であるキュオネと簡単に接触をさせるわけがなかった。そういえば、夕飯時にキロとデメテルが神妙に何かを話し合っていたのを見たような気がする。

僕の身体には沢山のアザや切り傷が出来て痛い。
「まあ、役に立たなさそうだが、無害なヤツなことは分かった。」
キロは腕を組んで僕を見た。敵意がないことを理解して貰えたので、僕は胸を撫で下ろした。