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回想と抒情

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老い


父は厳格な農夫だった。私は子供のころから農作業を手伝っていたが、効率の悪いやり方や、やる気のない態度、失敗に対して、父から厳しい叱責を受けた。収穫された桃を運搬する際にあやまって桃を落としてしまったとき。防鳥ネットを梨畑にかけてそれが風に飛ばないように結びつける際に結び方が下手だったとき。早朝からの仕事で眠さとだるさでなかなか動こうとしなかったとき。父は理想主義者だったのだと思う。理想に向かって技術を向上させていくのが父の生き方であり、その理想の追求を私にも要求したのだった。私の理想主義はそのようにして父によって植えつけられたが、私は農業を理想にすることは決してなかった。父と私は理想に向かうという共通の精神を持ちながら、遠く隔たった場所に理想を設定していて決して交わらなかったのだ。

職が決まって働き始めるまでの猶予の期間、長じた私は農作業を深く手伝うようになった。父はもう70歳くらいになっていたが、いまだに現役の農夫だった。私は就職活動で鍛えられた積極精神で、仕事を精力的にこなすことが多かった。私は特に力仕事に精を出した。農協から運ばれてきた一袋20?の肥料を多数倉庫へと移動する作業など、私がすべて行った。そんなとき、父はとても満足そうな雰囲気を漂わせるのだった。私はそんなとき、父の老いを感じた。あるいは、父の死に対する覚悟を感じた。父は未だに私の至らなさを厳しく叱責するが、私が農業の理想を追求するようになると、父の背負っていたものがようやく私に継承されたのだった。父は自分が死んでいくにあたって子供たちに残したいものがあった。それが農業に従事する誇りであり、農業の技術を高めていく理想であった。そして、それが子供に受け継がれて初めて、父は老いることができ、死に向かうことができたのだ。生き方そのものとして背負ってきたものを誰かに受け継いでもらうこと、人間の老いはそこから始まり、そのとき初めて人間は死を安らかに見つめ始めることができる。

作品名:回想と抒情 作家名:Beamte