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雪解け

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電車に乗り込んでからもおしゃべりは続き、こんなふうに明日からの学校生活も続いていくのだろうかと思っていたときだった。俺と高原は降りる駅も同じなのだが、いざその駅に到着したとき、高原が電車を降りなかった。

「高原?」

先にホームに踏み出した俺は、思わず振り返る。

「ん、もうちょっと乗ってようかなと思って」

プルルルル、と、発車のベルが鳴った。手を振る高原の「また明日ね」という言葉が、雑踏に混じる。その瞬間俺は、腕を伸ばしてひらひらと揺れていたその手を握り、電車内に舞い戻っていた。

「俺も行くわ」

目を丸くする高原に短くそう告げた。走ったわけでもないのに、軽く息が上がっている。高原はしばらく俺を見つめていたが、何も言わず、うつむいた。俺はそれを肯定と受け取り、高原と並んで扉にもたれる。握った手はすぐに離してポケットに突っ込んだが、汗ばんでいるのがわかった。

一転して無言のまま、俺たちは電車に揺られ続けた。高原は時折、首をひねって扉の外の景色を見ているようだった。今年の桜は開花が早く、もう散ってしまった木も多い。それでも流れる景色の中に、俺はいくつも淡いピンクの塊を見つけた。週末の予報は雨だったから、ますます花は散ってしまうのだろう。結局俺たちは、そのまま終点まで運ばれていった。

無言で歩く高原のあとについてやってきたのは、河川敷だった。遊歩道が整備された土手沿いには、ずっと遠くまで桜が植わっている。見慣れた桜よりもやや色が濃く、見事なまでに満開だった。

「ここの桜ね、ソメイヨシノより少し開花が遅いの。見に来たかったんだ」

高原はそう言って、ふふ、と笑いながら振り向く。俺は高原のその表情を見た途端、胸の奥がズキリと痛むのを感じた。何も分かっていなかった。分かりようもなかったかも知れない。でも、今この瞬間に、気付いてしまった。高原は、全然大丈夫なんかじゃなかったのだ。

「どうして、ただ寂しいっていうだけのことを、うまくやり過ごせないんだろうね」

ポツリとつぶやいた彼女の輪郭は、限りなく頼りなく、か細い。消えてしまいそうだというのは、こういう姿のことをいうのだろう。心の軋む音が、聞こえてきそうだった。

「よく歩いたんだ、ここ。明日も、明後日も、一緒にいると思ってたの。受験勉強は大変だけど、頑張っておんなじ大学に行って……近くに部屋借りようなんて話したりしてね、」
「俺もだよ」

夢見るように紡がれる高原の言葉を遮った。

「俺も……明日も、明後日も、なんとなくずっと、一緒にいるんだろうと思ってたんだよ」

言った途端、涙が頬を伝う。泣くつもりなどなかったのに、それは本当に何の前触れもなく、溢れ出た。高原は唇を震わせ、揺れるような目で俺を見ていたが、ふっと息を短めに吸ったあと、両手で顔を覆い、声をあげて泣き崩れた。

作品名:雪解け 作家名:ゆき