雪解け
高原の悲しみを、俺は想像することはできない。だが俺たちはふたりとも、運命の被害者だった。当たり前にやって来るだろうと思い描いていた未来を、まったく予想もしていなかった形で、失ったのだ。その1点だけが、俺たちの共通点だった。
うずくまってわんわんと泣く高原の傍らに座りこみ、俺はぼうっと川の流れを見ていた。いつの間にか陽が傾いで、川面がその光を強く弾いている。水鳥が飛び立った方向を目で追いかけたとき、高原が泣き止んで顔を上げていることに気付いた。
その横顔を見ながら、俺は漠然と、感じていた。俺たちはきっと、これからもずっと、何度も明日を思い描いては裏切られ、失望することだろう。乗り越えたつもりの出来事を思い出して、涙する夜もあるだろう。でもそれでも生きている限り、確実に時は刻まれてゆく。ならば俺たちは、望む未来を目指し、自ら歩みを止めず、進んでいくしかないのだ。
俺の視線に気付いたのか、高原がゆっくりと顔をこちらに向けた。朱を差したような頬、濡れた睫毛とくしゃくしゃになってはりついた髪の毛が、夕陽を受けて光る。なんて美しいのだろう、という言葉が、頭に浮かんで消えた。高原はしばらく俺と目を合わせたまま無言でいたが、ふいに表情を緩めて言った。
「ありがと」
その、半分泣いたままの笑顔に、ひらりと桜の花びらが舞い降りた。花は繰り返し咲いては散り、俺たちを新しい季節へと運んでいくのだ。