空に消えた隊長
その後、隊長や隼が発見されたという話は聞かない。隼は主に陸軍に配備された戦闘機で航続距離は短い。隊長の隼がいつまでも飛んでいられるとは考えられなかった。
隊長は信念に殉じ、その魂は大空を駆けているのだと思った。
そして昭和60年。
私は妻とともに初の海外旅行に出掛けた。時代はプロペラ機からジェット機の時代へと変わり、快適な旅を約束してくれた。
眼下にジャングルに覆われた滑走路が見えた。かつて私が配属された補給基地だ。なつかしい思いで私は滑走路を見つめた。しかし、すぐに分厚い雲が機体の下を覆い、滑走路は見えなくなってしまった。
仕方なく私は雲の上に目を移す。そこで私は信じられない光景を目にした。
「隼だ。隊長の隼だ!」
私は窓に顔を張り付けた。
「なーに? 大声出さないでよ」
横で眠っていた妻が不機嫌そうな声を出し、借り物のブランケットに顔を埋めた。
隼はしばらく平行に飛ぶと、離脱し、雲の彼方に消えていった。
(隊長……)
私の双眼から熱いものが溢れた。そして敬礼をした。軍人ではない、真の男に敬意を表する敬礼を。
(了)