小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
桃井みりお
桃井みりお
novelistID. 44422
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

花鳥風月 向日葵

INDEX|3ページ/4ページ|

次のページ前のページ
 


 朝顔が、夏の朝日に照らされている。

 ひなたの住む部屋は、最寄の駅まで歩いておよそ15分程の距離がある。
区立の小学校の角を曲がり、二つの私立高校の間を通って坂を下ると駅がある。
普段の朝7時過ぎには、幾つかの運動部が朝練習を始めているが、
夏休み中はどちらの高校もしんとして、ひなたの靴音が校舎に反響する。
通勤時は大抵いつもこの道を通って、7時32分の電車に乗る。
夜、帰宅する際には駅から大通りを真っすぐ行ってから、左に折れるルートで、
なるべく大きな道を選んで歩く。ひなたの足で2分くらい余計にかかる。
朝は時間がないので、最短距離を選ぶ。ひなたはぎりぎりまで寝ていたいタイプで、
基本的に朝食は摂らない。早足で歩きながらも、携帯だけはいじっている。


 勤め先の駅まで30分弱の電車の中で、シニヨン風に髪をまとめる。
何度かブラシを通し、後頭部でひとつに縛る。それをくるっと半回転ほど持ち上げて
2本のヘアピンで留める。ひなたはなれた手つきで毛先に動きをつけると、
手鏡を取り出して前髪を確認する。髪型が整ったら、また携帯をいじる。

『今朝は、いい感じに髪が決まった。うれしい』
と、ひなたのアバターは携帯画面の中の街角で突然言い出す。


 電車が駅に着くと、ひなたはカツカツと踵を鳴らしながらトイレへ向かう。
そこの鏡で、化粧をする。ひなたは化粧に時間をかけない。化粧に何十分もかける女性を
時間の使い方を知らないものと思っている。普段の化粧なら目元だけしっかりすればいいというのが、
ひなたの化粧に対する考え方だ。それにひなたは、自分の姿を見るのが嫌いなのだ。


 ひなたは大手日本茶メーカーの本社総務部庶務課に勤務している。
自社ビルの1階は自社店舗、2,3,4階が自社フロアで5,6、7階は貸しテナントになっている。
庶務課は2階受付の左側にある。片隅には給湯室があり、そこでコーヒーを淹れる。


「ひかげ、おはよう」
自分の席で携帯をいじっているひなたに、秘書課の金子真理が声をかけた。
真理はひなたと同じ大学の同じ国際秘書コースで机を並べた級友である。
ひなたは、高校時代から“ひかげ”というあだ名で呼ばれている。
高校から同じ大学へ行った生徒がいたため、大学でも同じように呼ばれることになった。
「あ、おはよう」と、ひなたは小さな声で答えた。
真理はひなたに笑顔を見せると、受付の真裏の秘書室のドアへ向かって歩いて行った。

『仕事、かったるいorz』
と、ひなたのアバターは笑顔で言った。

作品名:花鳥風月 向日葵 作家名:桃井みりお