CROSS 第20話 『Eris』
第3章 入所
ガリアとウィルは、倒れたクレーンの鉄骨の上を慎重に進んでいた。夜闇のせいもあり、敵は彼らに気づいていない。しかし、この夜闇は、彼らを落下させようとしているようで、何度か鉄骨から落ちそうになった。そのたびに彼らは、悲鳴をあげるのをこらえ、冷や汗をかいていた。鉄骨から落下しても、敵兵に発見されても、一巻の終わりだからだ。
しばらくして、彼らはやっと研究所の屋上に着いた。幸いなことに、屋上に敵兵の姿は無く、彼らは下への階段に向かった。銃声などから、1階のロビー周辺での攻防はまだ続いているようだ。ガリアとウィルは、建物内で敵を排除する場合に備え、自分の自動小銃にサプレッサーを装着した。
彼らは慎重に階段を降りていき、屋上から1つ下のフロアを捜索する。研究所長や会議室などがあるフロアだ。荒されていたものの、敵も味方もいなかった。
「敵は下のロビーに集結しているんだろう。しかし、捕らえられた味方もいないとはどういうことだ?」
「おそらく、堅牢なシェルターにまだ隠れているんだろう。救出の手間が省けるのは嬉しいな」
ガリアとウィルはそう言うと、下へ下へとフロアをおりていった。1階のロビーから聞こえてくる銃声などが次第に大きくなっていく。非常灯だけしか点灯していないため、屋内は薄暗く、捜索は慎重さが要求された。念のため、2人だけで一部屋ずつ捜索するので時間がかかるわけだが、これは仕方なかった。
コトンッ!
テーブルやイスが転がり、夕食が散乱している食堂を捜索しているとき、物が床に落ちた音がした……。ガリアとウィルは、音がした方向に素早く銃を向ける。その方向には、カウンターで仕切られた厨房がある。厨房の中も非常灯だけで薄暗かった。
ガリアとウィルは、慎重に厨房へ足を踏み入れる。腐った食材や夕食の匂いを、食堂よりも猛烈に感じた。汚れた厨房の床をゴキブリが走り去っていった。
「ザフトの連中、掃除の仕方を知らないのか?」
ガリアは、嫌そうな表情でゴキブリを目で追った。
すると、ゴキブリが移動した方向に、拘束されている数人の男女がいた……。そいつらが、ガリアたち帝国連邦の研究者たちであることは、白衣についているマークですぐにわかった。彼らは全員、猿ぐつわを噛まされ、目隠しをされていた。
ガリアとウィルは手分けして、彼らの猿ぐつわと目隠しを外し、縄を切って解放してやった。
「君たちはザフトじゃないな?」
解放したうちの一人がガリアに言った。初老の白髪頭の研究者であった。
「帝国連邦陸軍のCROSSだよ」
ガリアが、水色のベレー帽についているCROSSのマークを指さした。他の研究者たちは、ガリアたちがCROSSだと知り、顔を見合せていた。
「もちろん、我々を助けに来てくれたのだろうな?」
初老の研究者は、訝しげにガリアに尋ねた……。
「当たり前だろ! 紅魔館のお偉いさんに頼まれたんだよ!」
研究者たちの態度にイラッとしたガリアは、そう強く静かに言った。しかし、初老の研究者はたじろくことなく、
「それなら話が早い! 地下にある重要な研究室をザフトから取り戻してもらいたいのだ! 君たちなら容易だろう?」
ちょうど良かったという感じで、ガリアとウィルに頼んできた……。
「重要な研究室を占拠されたって? カギをかけてなかったのか?」
「……研究室が気になり、シェルターから抜け出したのだ。しかし、研究室のロックを外した途端、ザフトの連中が襲ってきてな……。まんまと泳がされてしまった……」
初老研究者と彼の部下らしい研究者たちは、申しわけなさそうにしていた。
ガリアとウィルは呆れながら、研究者たちにシェルターに戻るよう言い、自分たちは地下の研究室へ向かうことにした。
作品名:CROSS 第20話 『Eris』 作家名:やまさん