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神さまにつながる方法

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「まじー? 女の子とデートばっかりしているかと思っていたけど、意外に地味な趣味もあったのね」
「そんなことより、千夏(ちか)さんこそデートの最中じゃなかったんですか? ほら、連れの人、こっち見てますよ」
 そう言うと、千夏さんはふふって笑った。

「暁斗くん、ちょっと待ってね」
 奥にいる高原は、例の微笑みを浮かべてうなずいた。

 千夏さんは僕に顔を寄せると、色っぽい声で囁いた。
「ね、暁斗くん、着けてきたの? 」
 ぎょっ!
 なんで、分かった!

「だって、さっきから光喜くん暁斗くんから身を隠そう、隠そう、ってしているから」
「そ、そんなことありません」
「そう。じゃあ、暁斗くんここに呼ぶ? 」
「いや、それは」
「ふふ」

 ああー もうダメだ。
 千夏さんにかかったら僕はてんで子どもになってしまう。彼女は僕の母の通っている教会の信者さん。いわば、同信徒というか。子どもの頃から知っているお姉さんで、面倒見のいい優しい人だ。ただ、頭がよくて口もたつから、僕からしたら「頭上がらない」、って感じなんだ……

「まあ、いいか。じゃ、私、あっちに帰るね」
「待って、あの、……」
 立ち上がった千夏さんの手を取った。下から見上げる。

「あの人とどういう関係なんですか? 」
「あん?」
 じっと見つめあった。
 しばらくして千夏さんは、ニッコリと笑った。

「大事な人よ」
 そう言うと千夏さんは、僕の前に腰を降ろした。そして覗きこむように僕に話しかけた。

「光喜くんも、暁斗くんに言いたいことがあるんなら、ハッキリ言いなさい。本当のことをちゃんと話すの。暁斗くんは、光喜くんが着けていたからって、怒るような人じゃないわ。理由が分かればそれでいいだけ。あなたは本当はいい子だもの。その後で、お互いのこともっと話せばいいじゃない」

 もう下を向くしかなかった。
 千夏さんの言うとおりだ。
 このまま高原に何も言わずに、ここから去ることなんて、もう出来ない。

 千夏さんが高原を呼んだ。
「あのね、光喜くんがあなたに話したいことがあるんですって」

 入れ替わりで千夏さんは奥の席に戻った。
 おそる、おそる、顔をあげて高原を見た。
 彼は好奇心を持った子どもみたいな目をして僕を見ていた。ちょっと安心。

「あの……」
 息を飲んだ…………

「ごめんなさい」
 頭を下げた。

「僕、ずっと高原くんの後を着けてました」
「えっ」
「僕、君に学園のミスター盗られて、ずっと悔しくて…… 何か君の欠点がないか探っていたんだ。でも…………君を知っていくほど、君はいい奴で、かっこよくて、何か分からなくて…………もう、ミスターのことなんてどうでもよくなって………………君のことだけが気になって……着けちゃったんだ……」

 しばらく無言。
 そして、すぐにくすくすくす、て笑う声が聴こえた。
 顔をあげると高原が笑っていた。なに、なんか、すっごく可愛いんだけど。

「それで何か分かった? オレの裏の顔とか」
「いや……すごい事がいっぱい分かったよ! 君はものすごく強くてかっこいいとか、本当の神について勉強している、とか、……千夏さんと知り合い……とか」

 最後の千夏さんと知り合い、ってのはちょっと声が小さくなった。
 彼女との関係は、まだ分からなかったから。


「ふうん。それで、赤池くんはどうしたいの? 」
「えっ? 」
「オレのこと知って、今後、どうしたいの? 」
「えっと、えっと……………………僕と……友達になって欲しい」

 だんだん声が小さくなった。自分のホンネにびっくりしながら。

「けど……ダメだよね? 」
「なんで? いいよ友達になっても」
「ほんと? 」

 ものすごく嬉しい!

「けど、今後はオレの後つけるんじゃなくて、普通に会ってね」
「も、もちろん! あのね、僕、ホワイト・サークルに入りたいんだ」
「えっ!」

 そういえば、今日、日曜なのに千夏さん教会に行ってないじゃん。

「ホワイト・サークルが何するところなのか知らないけど、今日、チラっと聞いた話にとても興味が沸いたんだ。僕は教会で教えてもらう神さまが、どうしても分からない。僕の理解力が乏しいだけかもしれないけど」

「赤池くん、クリスチャンなんだ」
「うん、千夏さんと同じ教会。でも、最近はほとんど行ってない。……神さまが分からなくなっていたから。

とてもいい人が、すごく不幸になったりするのを見ていると神さまって、なんて無慈悲なんだろう、って思ってしまったから。そりゃ、不幸は試練だとか、色々言うのは分かるよ…………けど、僕には理解出来ない。その試練を耐えたら、本当に幸せなのかな、神の国にいけるのかな。……そんなことより、生きている間に、もっとすることがあるんじゃないのかな……」

 ちょっと熱く語りすぎたのに恥ずかしくなった。

「とか、色々考えてしまって……」

 誤魔化すように笑うと、水の入ったグラスのフチを指で辿った。

「で。さっきのホワイトサークルで『神を認識するのには、普通の精神状態じゃ無理』みたいな事言っているのを聞いて、すごく納得した。人間は神さまと交信できていない、だから、神の声を聞けないから不幸になっていくんだ、って思ったんだ。交信するには、もっと方法があるんだろ?」

「ま、ね」

 そう返事すると高原は、千夏さんをこっちのテーブルに呼ぼうとした。けど、奥の席にふたりの昼食がもう来ていたので、僕が席を移ることにした。

「参加するのはいつでもOKだよ。第一日曜日が活動日だから…………いちど、参加してみる? それでよかったら続けたらいいよ」
 千夏さんが会の説明をしてくれる。僕はもう参加する気まんまんでいた。

 次の参加日に、千夏さん、高原、と一緒に参加する。すぐにそう決まった。

 ああ、楽しみだなあ……
 なんか、今までとは違った世界の住人になれる気がする
 素敵な人たちの一員になれるんだ。もう今までのような、ヘラヘラしたダメ人間の僕はさよならだ。由美香に言ってやらなきゃな。もう、僕は不潔ではないぞ。刹那的な恋愛は終わりにしたから、てな。純愛に生きるぜ。…………って純愛?

 帰りの電車の中。隣に座っている高原をちらって盗み見た。千夏さんは、乗り換えの線が違ったから、途中からふたりになったんだ。

 僕は高原のことが好きらしい。
 認めまい、としていたけど、もう、ここでハッキリさせたほうがよさそうだ。だって、今、すごくどきどきしている。隣にいるだけで、すごく幸せ。こんな気持ちは初めて。これがいいか、悪いか、は、また後で考えることにする。

 けど。
 彼はやっぱりまだ謎だ。

 千夏さんは、恋人じゃない。
 ずっと、一緒にいたけど、それはすぐに分かった。伊達に恋愛繰り返してきた訳じゃないぞ。じゃ……誰? もしかして、本当にフリーなんだろうか。

 うーーん。
 それはないな。あれだけ、「高原くんは恋人がいるって断る」て有名なんだから。高原の態度を見ていたら、こいつが嘘をつくようなヤツじゃないのも分かる。だから……恋人はいるんだ。
作品名:神さまにつながる方法 作家名:尾崎チホ