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「舞台裏の仲間たち」 72~73

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・・・・・・

 6畳にも満たない、隙間風が入ってくる粗末な掘立小屋、
碌山のアトリエで「絶望(デスペア)」を製作中の碌山の長い独白が始まります。


碌山 「良さんの中に有る、絶望を表現しょうと思った。
   絶望にのたうちまわる姿を描きあげたいと強く思った。
   夫に裏切られ、我が子は病気で生死の境をさまよっている。
   信じるものが音をたてて崩壊を遂げる時に、そこには絶望が生まれる。
   しかし、その絶望は良さんにでは無く、
   実は自分自身の内面であることにある日、突然に気がついた。
   その事実に、ただただ、私は愕然とした・・・・
   絶望する女を描き上げようと言う
   私の目論見(もくろみ)も、ものの見事に崩壊をしてしまった!
   
    こうして粘土をいじっていても、、絶望しているのは良さんなのか、
   私自身なのか、まったく区別がつかないものになってきた。
   良さんのなかに、絶望した女の『もがき』を見出したのは、
   私の単なる思いすごしかもしれない。
   思いもかけずに、夫に裏切られてしまったが、
   その浮気の相手というのがあの狐(きつね)づらをした
   安曇野の女だったことも良さんとしたら、とても、
   我慢のならない出来事だ。
   
    今日は初めて女性のモデルが来た。

    立たせると、それは見事な身体の線をなしていたが、
   横に寝かせるとなぜか、ロダン先生のデナイ(ダナイード)に
   似てしまう。
   しかし女の絶望を表そうとして、頭を下にしたポーズをさせたが
   これも長い時間は無理だった。
   モデルが頭を下のするのを苦しがり、ものの20分も持たない有様だ。
   しかし、それ以上にこの作品には、内面が足りないままだ・・・・
   込めるべき魂が見当たらない。
   この作品に込めたいのは、女の悲しみ以外のなにものでもない。
   その悲しみとはどんなものだろう。

    だが、私の愛する良さんが懐妊をするとは、どういう意味だ。
   夫婦である以上、ありうる話とはいえ、
   これではまるで、裏切った夫を女が受け入れていることになる。
   毛嫌いをしていたのではないのか。
   許せないと、あれほどまでに苦しんでいたのではないのか・・・・
   その気持ちさえも、まっこうから踏みにじる、
   有無をいわせぬ不条理だ。
   これこそ、生きる地獄と思えるが、女とはそういうものか、
   あの、気高く生きる良さんであってもそうなるものなのか・・・・
   解らない、理解が出来ない。
   だが生きることは常に、不条理と、そうした矛盾の繰り返しだ。
   まさか良さんが、懐妊するとは考えてもみなかったことだ。
   夫の浮気を憎み忌み嫌っているはずの良さんが、懐妊をした。
   それが夫婦のきずなと言うものなのか、
   それが生きると言うことなのか。
   私には、まったく訳がわからない。
   
    形の見えないものに、説得力をどう持たせようと言うのだ・・・・
   絶望した女は、どのように苦悶をして、どのように
   のた打ち回るのだろうか。
   見えないものが、この粘土の形をさらにあいまいにする、
   私の頭の中を、またあやふやにしてしまう。
   完成するのか、この作品は。
   絶望を表現しようとしているこの作品は、
   女の苦悩の形は果たして、陽の目をみるか・・・・
   まだ見えない・・・・

    良さんの、本心は何処にも見えない。
   私の、心の落ち着く先はどこにある、それも見えない。
   一線を越えられない相手を愛してしまった、私が悪い、
   良さんを愛してしまった、見境のない私が悪い。
   だがもうそれは、自分ではどうにもならないことだ・・・・
   また苦しみばかりがやってきたが、
   今度もまたそれを乗り越えなければならない。
   いくつ乗り越えたところで、望む未来などはやってはこない。
   これが絶望か、
   これが絶望と言うものなのか・・・・
   見えないものを無理にでも、また見ようとしている。
   さて・・・・今度もまた、
   無限の彷徨(さまよい)地獄に迷い込んでしまったようだ。
   はてさて、私はやっぱり頭が悪い、
   頭が悪過ぎて、この作品もまた先が見えなくなってしまった。
   見つからない。
   どうにもこうにも、また、出口が見つからぬ」


・・・・・・