「舞台裏の仲間たち」 72~73
この頃の碌山は、皮膚病でも悩んでいます。
町医者の診察を受けていたことが、悪化させる結果を招きました。
一時は全身を包帯でぐるぐる巻きにし、目と口の部分だけを開けているほどです。
体調が優れなかったこの時期の碌山に対して、
一時的に病に倒れていた相馬黒光のほうは、ようやく健康を
取り戻していました。
そんな時期に碌山は、黒光への長年の恋慕が全くもって希望のないことを
衝撃的に思い知らされてしまいます。
良が懐妊をしたのです。
夫愛蔵の浮気という行為を憎み、許しているはずがない黒光が、
現実には、妊娠をしてしまいます。
夫婦の絆(きずな)とはそういうものなのでしょうか・・・・
自分がいくら恋い焦がれ、あがいてみたところでどうにもならない事実です。
碌山は心底悲しく、独り涙にくれます、深い絶望感が碌山を襲います。
そんなある日、中村屋に行くと、
良の二女の千香が、足首を押さえて頭を垂れ、かがみ込む姿を見つけます。
千香はしかられるとよくそんなポーズを取ってしやがみこんでいました。
彫刻家としての碌山の本能が動きます。
そうだ、この絶望を作品に表そう・・・・
(74)につづく
作品名:「舞台裏の仲間たち」 72~73 作家名:落合順平