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「舞台裏の仲間たち」 72~73

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 「黒光はパン屋の女主人として、9人の子を産み、
 店を繁盛させたが、彼女が有名なのは、中村堂サロンといわれ、
 「サロンの女王」として輝くほど、
 芸術家や文人が集まったことにあるのだろう。
 そう考えると、碌山もあまたいる芸術家たちの一人と言うことにすぎない。
 少年のころに黒光と出会い、碌山が熱烈な恋心を抱いたのは分かる。
 だが、碌山は20歳過ぎから足掛け7年も外遊をしている。
 ということは、碌山は7年後にあらためて
 黒光を愛するようになったということだろうか・・・・」


 西口が暗い天井を見上げたまま、怖い顔で腕組みをしています。
その原因は、第二幕の台本です・・・・
第二幕から展開される「中村屋サロン」の場面には、それなりの雰囲気を
かもしだしてほしい、と但し書きがあるだけで具体的な舞台装置については
一言も書かれていないためです。

 
・・・・・・

碌山 「”ラブ イズ アート、ストラッグル イズ ビューティー”
   良さん、これは直訳すると、
   ”愛は芸術なり、相克(そうこく)は美なり”という教えです。
   彫刻を教えてくれたロダン先生の、真髄の言葉です」

黒光 「そして、それがそのまま貴方の創作の姿勢ですね。
   早朝に冷水で頭髪を洗い、体を清めて、つめを切り、
   ワイシャツにネクタイまで結んで彫刻の制作にとりかかる
   ・・・・それが貴方の日常です。
   正午になると、木綿絣(もめんがすり)の着物に着替えて、
   私の居る、中村屋に出掛けてくる。
   時には帳場に座ったり、そうかと思えば、
   最中(もなか)の餡(あん)を詰める仕事を手伝ったりしています。
   子どもたちには「おじさん、おじさん」と呼ばれて慕われています。
   満たされた創作活動と、子供たちと遊んでくれる
   たのしいひと時もあるというのに、
   帰る時の貴方の背中は、あまりにもさみしそうで
   足取りさえも、とても重たく感じます。
   貴方の心に棲みついている、さびしいものはなんでしょう。」


碌山 「貴女を思えば、私の心が張り裂けそうです。
   昼は創作に打ち込み、粘土をこねていても、心からは
   貴女の笑顔が離れない。
こんなも近くに暮らしていると言うのに、
   こんなにも貴女の傍で、同じ空気を吸って生きていると言うのに、
   はじめて会ったあの日から、貴女はいつでも
   遠くのままの存在だ・・・・
   手を触れることもできるし、
   その甘い髪に触れることもいつでもできると言うのに
   肝心の貴女の心にだけには、いつまでも触れることができない。
   それが苦しいのです、
   そしてそれだけが、常に一番悲しい。
   張り裂けそうなこの胸を抱えたまま、私は今日もアトリエに帰ります。
   いくら作品に打ち込んでも、私の胸は晴れません」