SAS closed room
「合法……?」
誰とも分からない声が、狭い室内で響いた。
合法? だからどうした。第一あんな文字を信じていいのか? いや、違う。人を殺していいなんてこと、あるはずがない! いやあったとしても、していいわけがない!
……だが。
酸素計を見る。数値がまた下がっている。94。これは現実か? 悪い夢じゃ無いのか?
「合法……なんでも? ぶふー。よ、よく見ると、ききき君はウッフン☆くるみちゃんに、に、似てるなあぁぁぁ〜。ぶ、ぶふー」
そんな言葉をはくと、オッサンは女にじりじりと近付いていく。
「な、や、やめて下さい!」
女は怯えながら後ずさりするが、オッサンはお構いなしに女に接近すると、いきなりその手首を掴んだ。
「いや! やめて!」
「くくくくくく、くるみちゃあああああん! ど、どうせ死ぬならさああああああああ!」
そう言うと、オッサンは苔が生えまくった白い舌で女の顔をべろべろと舐めまわし始めた。
「いやああああああああ!」
「叫ぶんじゃねぇ!」
女の叫びを制したのはオッサンではなくイケメン兄ちゃんだった。
「てめぇら、いい加減にしろよ! 酸素が減るだろうが!」
そう言うと、女とオッサンの間に入り込み、イケメンはオッサンに思いっきり蹴りをかました。
「ぶふひーーーーーっ」
一鳴きした後、オッサンは無様に床に転がって、恨めしそうな顔でイケメンを睨んだ。
女はあまりのショックに泣き始めた。ああ、やめてくれ。君のそのしゃくりあげは酸素を凄く消耗しそうだ。――って、俺は何を考えてるんだ!? 目の前であんな目にあった彼女に対してあんまりじゃないか。あんまりだ……。だけど――
「いい加減、泣くのをやめろ! 殺すぞ!」
次の瞬間、俺の口からは自分でも耳を疑うような言葉が飛び出していた。
作品名:SAS closed room 作家名:有馬音文