SAS closed room
とにかく落ち着こう。落ち着いて考えるんだ。これは何かの悪い冗談だ。そうだろ?
「どうして……私、本屋さんに行きたいだけだったのに……」
か細い声で女が言う。
「俺だってバイトに行きてぇだけだったんだ。どーすんだよ、折角見つけた好条件のバイトだったのに、絶対クビだぞ、コレ!」
頭を抱えるイケメン兄ちゃん。そうか、皆なんの前触れもなく連れてこられたのか。
「ぼぼぼぼ、僕だって! 今からウッフン☆くるみちゃんの限定ボックスを買いに行かねばならないのですよ!」
なんなんだ、それは。
――とにかく条件は皆同じなようだ。誰もこの状況を理解していないし、ここがどこかも分からない。落ち着け。とにかく落ち着け。
壁に背を付け、息を一つ吐く。
ふとオッサンが部屋の中心へと歩き始め、そこに圧倒的な存在感をもって置かれている黒い布へと手を伸ばした。その行動を誰も止めはしなかった。皆、興味があるのだろう。あの中に何があるのか。赤い文字が伝えた‘プレゼント’――それはきっとこの状況を打開する物に違いない。
バサッ!
やたらと大きな音をたてながら、黒い布がオッサンの手によって宙に舞った。
その下にあった物は――――
作品名:SAS closed room 作家名:有馬音文