SAS closed room
どれ位の時間が流れただろう。一瞬にも永遠にも思えるようなそんな時間。俺達はそれぞれ顔を見合わせていた。一体誰が? 何の目的で? どうして俺達が? そんな風に思考を巡らしている間にも、酸素計の数字はじりじりと下がっていく。
「ぶふー。ふー。ふー」
ふいにオッサンが荒々しく息を吐きながら、自身の体をまさぐり始めた。何やってんだ、コイツ!
「てめぇ! 息吐きまくってんじゃねぇよ!」
イケメンがオッサンの胸ぐらを容赦なく掴んだ。だがオッサンは負けじとキッとイケメンを睨み返し、そして口を開いた。
「け、けけけーたいを! 探しているのですよぉ〜! 僕はぁ〜〜!」
オッサンのその言葉に、俺も他の2人もハッとなった。
そうだよ、ケータイだよ。どうしてこんな単純な事が思いつかなかったんだ。
慌てて俺もズボンのポケットに手をつっこむ。しかし、いつもあるはずの馴染みのその感触がいつまでたっても指に触れない。他の場所に入れたか? 今日に限って? 必死にありとあらゆるポケットに手を入れて、ケータイを探す。が、無い。無い。無い!
イケメンを見る。やはり無いようで必死に体を手で押さえまくっている。オッサンも女も同様だった。
「取られてる……」
自分でもビックリするほど絶望的な声が、喉から絞り出された。
酸素計の数値は96に下がっていた。
作品名:SAS closed room 作家名:有馬音文